一緒に閉じ込められた相手に手を使わないで飴を10個食べさせるまで出られない部屋


「………またか」
「またですね」

辺り一面真っ白で扉や窓さえない部屋に、また俺と浅間はいた。この間いた部屋と酷似しており、気がついたらいたという点から見ても同じものだろう。そう考えると、頭を抱えてしまうのも仕方がない。
前回と同じならばまた何かしらのことをしなければ出られない。それが少しはましなものであることを祈った。

「先生、これがありました」

そう言ってまた浅間が紙を渡してきたが、中身を見た瞬間にそれを破り捨てそうになった。

なんだ手を使わないで飴を食べさせるって!?どうやれというんだ!むしろ一つしか思い浮かばないわ!

「指示はなんでしたか?」
「………いや、出口を見つけた方がいいだろう」
「ですが前回は指示をこなしたら簡単に出れましたが」
「今回もそうとは限らねぇだろ」
「…………先生、紙を見せてください」
「駄目だ」
「……………」

なんとか浅間に紙を見せないようにと懐にしま__おうとしたら既に手元になく、慌てて浅間を見ればその手の中にあった。

「個性を使って取るんじゃないよ…」
「なんですかこの指示は」
「………」
「つまり、飴を口移しするということでしょうか?」
「はぁ!?」

簡単にその行動を口にした浅間の肩を思わず掴んでしまう。

「意味を分かって言っているのか……!?」
「………ああ。すみません。先生の伴侶や想い人には悪いですが、脱出するためには必要なことですので」
「俺に伴侶はいねぇしそういう意味じゃねぇ!」

俺がなぜ怒鳴っているのか、首を傾げている浅間にはまったく分かっていないらしい。なんだ。キスさえスキンシップで片付いてしまうほど俺は男として認識されていないのか!?

「はぁ……ですが他に方法がないのでは?見たところ出口らしきものはありませんし、前回は指示を達成したところで扉が現れましたし」
「………………浅間はそれでいいのか」
「私は特には」
「………そうか」

色を使った術は昔に沢山やったし、別に口吸い程度なら特に構わないだろ。と思って返事をすると、相澤先生は真顔になった。
さっきから一体どうしたというのか。だがこんな意味のわからない状態だからか。いくらプロヒーローといえども不安定になってしまうものか?それか、やはり想い人でもない者とそういうことをするのは抵抗があるのだろうか。しかも生徒が相手だ。相澤先生にとっては脱出するためとはいえ苦渋の決断だろう。

なんて考えていると飴が入っている袋を見つけた。

「先生、飴ありましたよ。どちらが__」

振り向いたら、案外先生が近くにいた。怖いくらい真顔で、そして私の手から飴を奪い自分の口に放り込む。すぐに私の顎を持つと上を向かされた。身長の高い先生に合わせられるので首が痛い。次の瞬間には唇が合わさっていて開いていた口から飴が入ってきた。
それで終わりかと思えば、飴と一緒に入ってきた舌が勝手に動き始める。

「ん、」
「はぁ……ぅん」

特に抵抗も応じることもせずにいれば、先生は上顎を舐めたり舌を吸ったりと好きに動き回る。
精神は経験豊富だが、今世。つまりこの身体ではそういうことはまだ経験していないわけで、いくら精神的には慣れていても身体は慣れていないわけで、意外に上手い先生のキスに時折身体がびくつく。

「ん、はぁ……舌も入れるとは言われてません」
「男とキスして口移しだけですむと思うなよ」

結局飴が溶けてしまった頃まで解放されず、離された時には僅かに息が上がってしまった。文句を言えば先生に真顔のまま返答された正論に何も言えず黙る。

「あと9回か」
「もう飴が溶けるまでしないでくださいね」
「保証はできん」
「苦しいんですよ」
「とか言っている割には慣れているようだったが?」
「慣れていると言っても一応今のファーストキスですよ(今世では)」
「…………」
「なのに先生意外に上手くて少し振り回されました」
「…………お前、そういうことをホイホイ言うなよ」
「?何故ですか?」

キョトン、としてこちらを見る浅間に頭を抱える。あと何度俺がこいつのことで頭を抱えなければいけないのか。
淡々と言った時はついその言葉に釣られてしまい、妙に慣れているような姿に腹が立ったのは事実。だが苛立ちのままにいきなり塞いだ時の一瞬の驚きと、拒否も応えることもしないくせに俺の動きに時折反応し、その時のこいつの普通ならば絶対に見れない表情に止まらなかった。それは認めるが、だがあんだけ淡々としていてファーストキス。しかも上手いと褒められるのは予想外すぎて思わず飴を含むことなく襲うところだった。
しかも浅間は自分が言った意味を理解しておらず、警戒心が強いくせに妙なところで無自覚。

「………とにかく、後9回。さっさと終わらせるぞ」
「先生、先ほどのペースですと終わるのはそれなりにかかりますが」
「………俺も男なんだよ」
「はぁ、まあ女性ではありませんよね」
「そういうことじゃねぇんだが……」

ため息をついて袋から飴を取り出し浅間と向き直る。

「よし、そんじゃいくぞ」
「はい……」
「…………どうした」

今度はきちんと正面から宣言をしてからやろうと肩を掴むと、浅間は途端に歯切れ悪くなった。だがどうしたのかと聞いてもなんでもないと言う。あきらかに何かあるだろうとは思うが、何でもないと言われればそれまでだ。
とにかく、早く出るためにも浅間のためにも、さっさと終わらせるのが得策。……少し勿体ないと思ってしまうのは仕方がない。

「………あの」
「だからどうした」

飴を口に含もうとしたところで、また浅間に止められる。今度こそ聞き出そうと少し強めに言えば、浅間は少し視線をウロウロさせてから、下を向いて言いずらそうに口を開く。

「私からでもいいでしょうか……?」

ピタリ。と体が固まってしまったのは仕方がないだろう。今浅間はなんと言った。自分からやると?キスを?浅間が俺に?

「〜〜っ!」

片手で目を塞いで天を仰ぎみる。
惚れた女にそんなことを言われて、襲わなかった俺を誰か褒めてほしい。
浅間の方が身長が低いのだから自然と上目遣いになり、いつもの無愛想ぶりはどこに置いてきたのか恥じらいつつも言われ、先程の余韻がまだ残っているのか僅かに頬を赤らめてそんなことを言われた。これは俺の願望が生み出した幻か?そんなことを思ってしまうほどそれは衝撃的で、その誘いは魅力的で。だがだからこそ消し炭ほどになっている理性を総動員してなんとか理由を聞く。

「その……正面から改めてやられると、何故だか恥ずかしくて……」

けれどさらにそんな追い打ちをされた。なんだ、これは俺の理性を試しているのか。

「………分かった」
「ありがとうございます」

飴を渡すと、一つ取り出し口に含む。

「………すみません、少し屈んでもらっていいですか?」
「あ、ああ。すまん」

屈んだことによって距離が近くなり、浅間が俺の首に手を回して押したことによってゼロになった。

「ん、は……」
「っん……」

薄目を開けて見れば、目を閉じ俺にキスをする浅間が見れた。それは理性をさらに揺さぶってきて目の毒だったが、すぐに口の中に飴が入ってきて離されてしまう。

「はぁ…あと8回ですね」
「………ああ」
「ちょっと思ったんですけど、これって一人10回なんでしょうか。それとも合わせて10回でいいんでしょうか?」
「分からん。だが、まあ合わせてでいいんじゃないか?」
「そうですか。じゃあ次いきますね」

本当に俺からやるのが恥ずかしかっただけで、自分からは特に思うことはないのか淡々と進める浅間。出来れば恥じらってするところを見たかったという思いもあったのだが………。
まあ今はこの状況を役得だと思うことにした。



***

「はっ……」
「はぁ、」

ようやく9回終わり離れると、先生の頬は僅かに赤くなっていた。

「……口の中が甘いです」
「……お前な………他になんかあるだろ」

呆れたようにため息をつく相澤先生にその理由が分からず首を傾げると、さらにため息を吐かれた。
とにかくやっとラストだ。さっさとすまそうと最後の一つを口に含み、先生の服を軽く引く。するともう心得たように屈み、先生の顔が近づき唇が触れた。
口移しするために開いていた先生の口の方に舌で飴を押しやって、入ったことを確認すると離れようとした。ら、いきなり後頭部を抑えられて先生の舌がこちらに侵入してきた。

「んぅ!?」

最初のとはまた違う。体重をこちらにかけ覆い被さるようになった先生が、まるで全てを食べてしまうかのように口の中を蹂躙する。

「っ、は……んぁ」

先生の熱と、私の熱で飴は簡単に溶けきってしまう。それでも先生は止まらない。頭ではいくら冷静でも慣れていない身体ではすぐに限界がきてしまい、生理的に出た涙で視界が歪む。

「は、……」

やっと解放されたときにはすっかり腰が抜けて崩れ落ちそうになり、先生に支えられる。

「はぁ…はぁ…………やり過ぎです」
「………悪い」

俺に支えられることでなんとか立っている浅間は、頬を赤らめて、生理的に出た涙で自然となった上目遣いでこちらを見る。その姿につい押し倒しそうになるが、今の状況でさえアウトなのだ。僅かに残った理性でなんとか耐える。

ガチャ

前回と同じ鍵が開いた音にその発生源を見ると、先程まで確かになかった扉が現れていた。

「本当にこの部屋はどうなってんだよ……」
「………先生、もう離してください」
「一人で立てるのか?」
「問題ありません」

胸を押されて距離を取ると、言葉のとおり浅間は自分の足でしっかり立っていた。
回復するの早すぎだろ……と、温もりがなくなった腕に寂しさを覚えるが、さっさと扉に向かっていった浅間の後を追った。


(先輩!どこに行っておられたのですか?)
(ちょっと閉じ込められていた)
(大丈夫だったんですか?)
(ああ、問題ないよ)
(?………先輩、顔が真っ赤ですよ?)
(!!………なんでもない)

((くそ。あの程度で心乱されるなんて、私もまだまだ未熟だ……))

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