おつかれさま


「あっ、おかえりなさいなまえさ……」
「……ただいまです……お邪魔します」
「……顔からしてもう随分お疲れですね」
「……だいじょうぶです、ゆづきくんといられるんだからもうめっちゃ元気です」
「それなら良かったんですけどね。ご飯、今からよそいますからコート脱いで、椅子に座っていてくださ、」
「……」
「……なまえさん、倒れちゃった」
「……そんなつもりはなかったんです……なんか力入らなくて……おかしい……」
「HPゼロになるまで頑張ったんですね、お疲れ様です。この調子だと椅子座るよりざぶとんに座った方が良さそうですね」
「う……だいじょうぶですもん……」
「はいはい、じゃあ僕の肩掴まって、ローテーブルのほうにご飯用意しますからね、ちょっと動きましょうか」
「……ゆづきくん、介護とか上手そう……」
「……得意分野だと思います」
「えへへ、じゃあ安心しておばあちゃんになれますね……おばあちゃん……、」
「はい、肉じゃがとお味噌汁とご飯とお浸し。……なまえさん?」
「私が、おばあちゃんになったら、ゆづきくんはどうなるんですか……」
「……」
「ゆづきくん、キュウコンだから、きっとずっと今のままで……、私だけ、どんどん年取って、おばさんになって、おばあちゃんになって、一人で死んじゃう、死んじゃう、わたし、どうしよ、」
「……」
「私が死んだら、ゆづきくん、別のひとといるのかな、別の人の隣にいるのかな、……やだなあ、いやです、私以外のひとがいるなんていやだよ、ゆづきくん、でも、ゆづきくんはそっちのほうが幸せですよね、どうしよう私好きな人の幸せさえろくに祈れないんだ」
「……」
「というか、私が死なないうちに、もしかしたら明日にでも、飽きられちゃうかもしれない、捨てられるかもしれない、もういらなくなっちゃうかもしれないんだぁっ、どうしよ、どうしようぅっ、ゆづきくん、私好きな人のことも信じられないんだよさいていだよ、もういやだああ」
「……なまえさん」
「何にも信じられない、優しいひとでも、何考えてるのかわからなくて、目の前にいるひとが怖くなっちゃうの、仲良くしてくれてる友達が笑いながら私を馬鹿にしてるように見えるの、私はっ、馬鹿だからいつも思うがままに笑ってるのに、みんなは嘘ついて笑ってるんだって、私ばっかり正直で、ほんとうは私しか楽しくないのに、みんな楽しいフリしてるんだって、怖いよ、そんなの、怖いよお、ゆづきくんもそうなの、本当は私のこといや? 鬱陶しい、めんどくさい、そうだよね、だって私自分で自分が鬱陶しいもんっ」
「……」
「みんなみんな嫌いだもん! 嘘つきで笑って私を馬鹿にする人なんて! みんな嫌い、友達も、先生も、先輩も後輩も、店長も、みんなみんなだいっきらい、きらい、きらい、ゆづきくんも……きらい……!」
「……、」
「でもね、でもね、一番はこんなめんどくさくてこわがりでなんにもうまく出来ない私がいちばんっ、いちばん嫌いっ……! 私はっ、なんでこんなんなんだろ、なんでこんなに不器用なんだろ、なんでこんなに鬱陶しいんだろ、なんでなんで嫌い嫌い、大嫌い、うあああああっっ……!!」
「……なまえさん、」
「きらい、きらい……っ、……っうう、やだあ、やだあゆづきくんだきしめられるのやだああ」
「なまえさん、すき」
「……っは、」
「なまえさん、好き、好き、なまえさんが、好きだよ、」
「……やだあ、やだああこわいよおお」
「なまえさんが、なまえさんのことも、僕のことも全部嫌いでも、僕はなまえさんが好き、愛してる、」
「やだ……っ、そんなはずないもんっ、いつか消えちゃうんだもんそんなのいやだあっ、ずっと一緒にいたいんだもんん」
「確かに、未来が、どうなるのかはわからない。近い未来も、遠い未来も」
「……っ、ううっ、」
「だから、今の僕の言葉なら信じられませんか。なまえさん」
「いやだああああっやだよおおこわいよ、こわいよゆづきくんっ、……ふあっ、」
「なまえさん。好き」
「……っ、やだぁ……」
「なまえさんは、僕のこと好き?」
「……すき、すき……」
「良かった。じゃあ、両思いだ」
「……うっ、ううう、ゆづきくんすき、すき……ひどいこと、いっぱい、ごめんなさい……」
「もう、なんで謝るんですか」
「だって、だってわたしめんどくさくて、重くて、でもゆづきくんに嫌われたくないっ……きらいにならないで……ってところが重くて……うう、」
「あはは、なまえさんのそういうところ、全部いじらしくて可愛いと思ってますから。安心して、嫌いになるわけないですよ。見捨てるはずもない。こんなに不器用で可愛くて愛おしくて、丸ごと好きな人、他にいませんよ」
「……ゆづきくんも、へんなひと」
「そうかもしれませんね。それと、僕もなまえさんの隣に僕以外のひとがいるのは嫌だ。僕だけがなまえさんを抱き締めたり可愛がったり、愛したい」
「……ふぇ、」
「……ご飯、冷めちゃいましたね。温めなおしましょうか」
「……はい、ありがとう、ごめん、なさい、」
「いいえ。……とりあえず、お味噌汁飲んで、あったまってくださいな。他のは今温めますから」
「……、おいし、……ひっく」
「あはは、しょっぱくなっちゃいますか。肉じゃがとかご飯も、いっぱい食べて、元気出してくださいな」
「うん、うん、……ゆづきくん」
「はあい、」
「そばにいてくれて、あり、がとう……」
「……こちらこそ。ありがとう」
「ゆづきくん……」
「はい、」
「……う、あの、」
「そばにいてほしい?」
「……ばれてら」
「なまえさん寂しいって顔に書いてあるから。お風呂は入る元気ありますか?」
「う、正直、ないです……」
「じゃあ、ごはん食べてお化粧落として歯磨きして、あと着替えたらもうベッド行っちゃいましょうね」
「……はい。……っ、ごちそうさま、です、あの、食べきれなくてごめんなさい、」
「おいしいものをおいしいだけ食べてもらえたらいいんですよ。よし、じゃあ片付けたりしてる間に歯磨きとか着替えとか、できますか?」
「……うん、」
「はい、流石です」

「……なまえさん、」
「ゆづきくん……」
「寝たかと思いました。だいじょうぶ?」
「……だいじょうぶ、……だいじょうぶ、です、」
「どうしたんですか、急に頑なに。というか、うつ伏せだと顔見えないじゃないですか……よいしょっ」
「ギャッ……!?わっ、あのっ、むり、てかゆづきくんもちゃっかり着替えて、えっ、ひえっ」
「僕もこのまま寝ちゃおうと思って。というかなんでそんなに逃げるんですか、逃がしませんけど」
「ひゃっ……うう、うううあの、ひとりになったら……ちょっと冷静になって……恥ずかしくなって……あと、うれしくて、」
「……そう、よかった」
「ゆづきくん、ありがとう、あのね、あのね……」
「……泣き疲れて、眠いんですね。眠る前に、布団被りましょうか。電気も消しますよ」
「はい……、ゆづきくん、ゆづきくん、だいすき、ありがとう、わたしを、好きでいてくれて……」
「……いいえ、僕が、好きなだけですから。好きですよ、全部、なまえさんの全部が」
「私も、ゆづきくんのぜーんぶ、だい……すき……」
「……なまえさん、」
「……すぅ……」
「……。おつかれさま、なまえさん。僕のひと、可愛いひと」

- 7 -

*前次#


ページ:



ALICE+