ひなりさんとおでんわ


『……あっ、もしもし先輩!』
「ひっひなりちゃん久しぶり……! 元気……ですか!」
『ふふ、元気ですよ! 今は夏のコンクールに向けて頑張ってるところです!』
「そうなんだ……、頑張ってね、あの、多分文化祭には行けると思うから、その時楽しみにしてるね……!」
『はい! 先輩にも見てもらえるなら、もっと頑張らなくちゃです! ぜひ祐月と一緒に来てくださ、』
「ゲホッッゴホッッヒィッッ」
『せ、先輩! 大丈夫ですか!』
「う……大丈夫、ちょっと動揺してしまって……」
『ふふふ、……どうですか、最近は!』
「え、えええ……は、恥ずかしい……」
『私昔からしてみたかったんです、恋バナっていうの!』
「う……そう言われると……。ええと、ええと、最近……も、仲良く、してる、はず、です……多分」
『それなら良かったです! ……具体的には、どういう』
「ヒナリちゃんやけに興味津々じゃない……?」
『だって、祐月が誰かを好きになるなんて、しかもそれがなまえ先輩だなんて、気になるに決まってるじゃないですか! ……あ、嫌、でしたか……?』
「ううん、だ、大丈夫……。わ、私も、誰かに聞いて欲しかった……かもしれないし」
『ほんとですか! それならぜひ、色々聞かせてほしいです!』
「……えっと」
『はい!』
「……すごく、優しくて優しくて……」
『はい、』
「……それで、かっこよくて、綺麗で、すごく、優しくて、……なんかもう、毎日だいすきで、心臓がもたないっていうか、」
『……先輩、祐月のことだいすきなんですね』
「……言い返す言葉もないです……」
『あと、もうちょっと具体的には……?』
「ひ、ひなりちゃん、今日は本当にグイグイ来るね……」
『恋バナ、楽しくて!』
「そ、そっかあ……えっと、具体的、えっと、一緒にご飯を作ったり、食べたり、」
『祐月、もう向こうの記憶も戻ったことだし、プロですからね!』
「あとお出かけしたり……ううんでも、だいたい家にいるかなあ……」
『お出かけの時は! 手を繋ぎましたか!』
「へ……!? あっ、繋いでない……なあ……そういえば」
『え!?』
「そういえば、あれ、なんでだろ……」
『それは! 今度先輩から繋ぎましょう!』
「え!? それはちょっと無理かと、」
『大丈夫です、祐月のことですからそういう素振りを見せたらさっと手を取ってくれます!』
「あ……ヒナリちゃん流石……やっぱりトレーナーだもんね……」
『ふふ、そうですね、祐月にはたくさん助けてもらいましたから』
「……きっと、ヒナリちゃんしか知らないあのひとの顔が、いっぱいあるんだろうなあ」
『……先輩、それは、先輩もですよ』
「……?」
『私しか知らない祐月の顔があるように、先輩しか知らない祐月の顔もあるんですよ。それから、祐月しか知らない先輩の顔も。みんな、同じ顔なんてしないですよ。……だから私もけっこう、先輩が羨ましいです。もちろん、恋とかそういうのは関係なしに、ただ、いいなあって』
「ヒナリちゃん……」
『ごめんなさい、先輩相手に長々と喋っちゃって! でも、祐月も羨ましいです、先輩の可愛い表情ひとりじめなんて』
「……へっ?」
『私、初めて会った時から先輩のファンですから!』
「う、うん……!? ありがとう……? というか、流石はゆづきくんのトレーナーといいますか、さらっと爆弾を投げるあたりそっくり……」
「ただいま、なまえさん……って、電話中でしたか、すみません」
「あっおかえりなさい、ヒナリちゃんですよ、」
『えっ、先輩今どこにいらっしゃるんですか?』
「今私の家だよ、今日は遊びに来てくれるって、約束で……」
『そうだったんですか! お邪魔してすみません、せっかくなのに』
「大丈夫だよ、……というか、代わる?」
『え! じゃあ、ぜひ!』
「というわけで、はいゆづきくん」
「もしもし、ヒナリさん?」
『祐月! あのね、先輩には聞こえないようにしてほしいんだけど、』
「……? はい、なんですか」
『ちゃんと今度、外で手ぇ繋いで歩いてあげてね』
「……そんな話してたんですか?」
『ふふ、秘密だからね! 祐月は、どう? 先輩と』
「仲良くしてますよ。ただ、彼女最近少しお疲れみたいだから、何かしてあげたいなって思って今日来たんです」
『そっか、良かった! 私の分も、先輩のこと大事にしてね』
「はい、任せてくださいな」
『……先輩、可愛い?』
「可愛いですよ、とても。甘えん坊さんで、それこそ疲れた日なんかすごく」
『いいなあ、先輩可愛いだろうなあ』
「この座はどうしても譲れないので、ごめんなさい」
「ゆづきくん、これは冷凍庫でだいじょうぶですか……って、まだ電話してましたか、すみません」
『あっ先輩戻ってきたんだね、じゃあまたゆっくり聞かせてね、祐月』
「はい。じっくり惚気させてもらいますね。ヒナリさんもお元気で」
『うん、それじゃあね、先輩にも宜しくね』
「……ゆづきくん?」
「それは冷凍庫で大丈夫ですよ、あと、なまえさん」
「はい?」
「今度、どこか出かけましょうか」
「! は、はい」
「どこに行きたいですか」
「……じゃあ、人が混んでるとこがいいです」
「……意外ですね」
「そしたら、ちょっとしたいことがあるんです」
「……ふふ。そうですか、それは楽しみだなあ」
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