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目隠し



執務中、驚きを求めた鶴丸が突然目隠しを仕掛けてきた事がきっかけに始まる、目隠し当てっこ。

当然、驚いた彼女に気を良くした鶴丸は、新たな驚きを求めて去っていく。

その様子を何処からか見ていたらしい者が、密かに新しい遊びを閃いたようで、その思い付きを誰かに伝えるべくそそくさと足早にその場を去っていった。

そして、執務を終えて休憩に入っていたところに、茶を飲む鶯丸と縁側で寛いでいると、再び誰かに塞がれた視界。


『うわっ。』
「突然ですが、主さんに質問です!今、主さんに目隠ししているのは誰だと思いますかーっ?」


楽しげな声音で問うてきた声。

其れに対し、すぐ近くに居るらしい博多のニシシッ、という楽しげな笑い声も聞こえてきた。

次いで、再び先程と同じ声が催促してきて、「誰だか当ててみてくださーい!」と上から降ってきた。

隣の鶯丸がふ…っ、と笑んだのを合図に口を開き、答える。


『んーっと…今、声をかけてきたのは、確実にずおだね〜。けど、目を塞いでるのは、たぶん違う子だな…?』
「えっ!大将スゲェ…!!よく分かったな!!」
『あ、その声は厚君だね。って事は、今私の目を塞いでるのは厚君か。』
「あ…っ!?」
「あちゃあーっ!やらかしてしもうたたいねー!」


思わず声を出してしまった厚が慌てて“しまった!”という顔をするも、バレてしまったものは仕方がない。

すぐにバレてしまって悔しがる鯰尾と謝る厚に、案外可愛らしい遊びを仕掛けてきたものだと微笑む。

お互いに楽しげに笑い合う様子を偶々影から見ていた鶴丸は、「こいつぁ面白そうだ…!」と短刀等を真似て再度チャレンジする事を決める。

早速、内番を終えた光忠を巻き込んでの悪戯に再挑戦である。

今度の仕掛人も、最初と同じく鶴丸なのは一緒だ。


「わっ!」
『うわっ!?またか…!』
「ははは…っ!驚いたか?」
『その声と台詞は鶴さんだね?ハイハイ、驚きましたよー。』
「よしよし、ソイツは予想内の反応だな。だが、今回は前とはちょーっと違うぜ?誰が目隠ししてるか、当ててみな!」
『ん…?鶴さんと違ってガッチリした手だね…。鶴さんだったら、もっと細くてひょろっこいもん。』
「おっと…、そいつぁ聞き捨てならないな〜。俺だって此れでも鍛えてる身だぜ?」
『あっはっは、其れは光忠に勝ってから言いな。』


そう言った瞬間、ピクリと動いた指先。

其れでいて、触れた感触は布を付けた手――つまり、相手は手袋を着用している手、という事だ。

其処から導き出される答えは簡単である。

常に手袋を外さない刀とは一体誰だったか…?

思い当たる刀が数振り。

そして、今しがたの会話と相手の反応を鑑みて導き出される答え。


『…答えは光忠だな?』
「こりゃ、驚いた…。正解だぜ、主。」


するり、とゆっくりと外された掌。

後ろを振り向くと、やはり其処には光忠が居た。


「凄い…っ、よく僕だって分かったね…?」
『何となくだよ。あと、目を隠されてる時と触った時の感覚…?何時も手袋を着けてるのは、光忠ぐらいしか居ないからね!』
「確かにそうかもしれんが、光坊は一言も喋らなかったんだぞ?よく分かったな。」
『ふっふっふ…!私は君達の主様だからねぇ、此れくらいの事、分かって当然にゃのだよ!』
「ゲームとしては、負けちゃったけども…僕だって気付いてもらえたのは純粋に嬉しかったなぁ…っ。」
「ふむ、此れはなかなかに奥深い遊びだな…面白い!」
『にしても…まさか光忠も参加してくるとは思わなかったなぁ。』
「鶴さんに誘われちゃってね。主をあっと驚かすのに僕も協力してくれって。何時も見てるか被害に遇うかのどちらかだったけど、偶には僕からもちょっとした悪戯を仕掛けてみるのも悪くないかな、って思ったんだ。」
『成程ね〜。愉しそうなのは別段構わんが、あまり仕事の邪魔はしてくれるなよー?』
「その点については、ちゃあんと心得てるさ!さぁて、俺はまた新たな驚きを求めに行くとするか…!」
「僕は、自分の担当してた分を終えたから、他の子達の内番を手伝ってこようかな?」
『そうかい。まぁ、悪戯も程々にな。いってらっしゃーい。』


彼女が触れた手を柔く閉じたり開いたりして感触を思い出す光忠。

沸き上がるこの感情は何か…?

名前を付けるには、まだ彼は人の身を得てからの経験が浅い…。


―その後、度々目隠しされては当て合いっこ。

今度の仕掛人の声は光忠、手は薬研。

此れは、薬の匂いがしたからすぐに分かった。


「だーれだ…っ!」


次の仕掛人の声は今剣、手は岩融。

此れは、声と手の大きさがあまりに違うのと、彼とよく一緒に居る人物を思い出して正解した。

また或る時は、万屋帰りに無言で目隠しされたかと思うと、横合いからフォローするように鶴丸と光忠の声がしてきたので、仕掛人の手は大倶利伽羅のものだったと分かった。

彼にしては珍しいと思い、訊いてみたら。


「馴れ合うつもりはないと言ったが、国永から無理矢理このくだらない遊びに参加させられたんだ…。」


…との事らしい。

遠征帰りに御愁傷様である。


―時はまた空いて、再び誰かに視界を塞がれる。


「だーれでしょう?」
『今度は誰かな…?』
「あははっ、当ててごらん?主。」


楽しげな声が頭の上から降ってきた。

声が光忠であるのはすぐに分かったが、此れまで仕掛人と目隠しする人物が別々だったりした事を考え、取り敢えず、目を隠す人物を特定する為にさわさわと掌に触れる。

クスクスと楽しげに笑む後ろの声。

其処から導き出された答えに、彼女は意外そうな声を発した。


『もしかして…光忠?』
「ふふふ…っ、正解。よく分かったね?なるべく分からないように手袋まで外してたのに。」
『何となくだよ。触った感触が光忠っぽいなぁって思っただけ。』
「残念、もうちょっと悩んでくれるかと期待したんだけどなぁ…。」
『そう言う割には嬉しそうだね?』
「うん、まぁね。百発百中、主は僕だって分かってくれるみたいだから。嬉しいに決まってるさ。」
『ふふふ…っ、光忠は俺の初期刀だからね。分かって当然だよ。』
「そうだね。有難う、主。」
『何の御礼だよ、其れ〜?』
「何となく言いたかっただけだよ。」


何処かはにかんだように笑うその時の光忠は、小さな花弁を舞わせて輝いていた。


―おまけは、皆の楽しげな様子に便乗した爺が出陣前の挨拶に目隠ししてきたのであった。

その相手が意外な相手だったばかりに、予想が付かず、この時ばかりはあっさりと降参。

視界を解放されて振り向けば、なんと仕掛人は爺でも吃驚爺の方ではなく、三日月お爺ちゃんの方だった。


「皆何やら愉しそうにしていたからな。俺も、ちとやってみたくなったのだ。はっはっは…っ、まぁ爺の気まぐれなお戯びさ。なかなかに面白かったぞ?」
『ははは…っ、其れは良うござんしたね。』


袂で口許を覆い、にこやかに笑う彼。


「良きかな、良きかな。」


偶には、こんな日があっても良いのかもしれない。


執筆日:2020.08.28