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【弐】



 主様がどうやって審神者になったかの話で、どうやってこの世界に来たかの説明をする事になる話をどっかで書こうと思うも、結局ボツ扱いにしてた。
 取り敢えず、流れとしては、皆に訊ねられて初めて主は政府に正式に呼ばれて審神者になった訳ではない事が判明。
審神者が見た猫の存在や、現世での主様の扱いはどうなっているかの調査を管狐に頼む。
 …という感じのお話を挟む予定で考えてたけど、序盤に入れてなきゃいけない系を入れずに(というかタイミングを見失って)話数が五拾話近くなってしまったので敢えなくボツに。
 一応、補完ネタとして取り扱う。
▼以下、ちょっとだけ頑張って書こうとして頓挫した一部分なる。
(※上記的内容に全く突入してない事は気にしない。)


第肆拾玖話(予定だった):猫の行方、秋雨と思い遣る心。


 今日は朝から雨が降っていて、肌寒く感じた。
始めこそ、何時もの政府指定の審神者服こと巫女服だけで居れたのだが、戸の隙間から入ってくる冷えた隙間風で少し寒くなってしまったのだ。
このまま仕事を続行しても良かったが…肌寒さに一度切れてしまった集中を取り戻すには何か身に付けた方が良いだろうと考えた律子は、手身近にあったショールを某布被りのお化けの如く頭から被って寒さを凌いだ。
…が、其れでも何か足りないなと感じた律子は、身体を温める飲み物が欲しくなって、ショールを被ったままに部屋の外へと出る。
 秋特有の不安定な空模様になったのか、雨を降らす外の空気はひんやりとしていて足先を冷やした。
冷たく冷えた廊下を歩き、縁側へと向かう。
外に面した縁側は、雨の日だからと戸を閉めていても冷えていた。
少し前まで夏の暑さを残していたというのに。
今やすっかり秋らしい季節と相成っていた。
 秋雨前線がこの地域に掛かっているからか、このところ雨続きである。
あまりに肌寒い日が続くと、日射しが恋しくなってきてしまうところだ。
しかし、ザアザアと降り続く空を目の前にしては仕方がなかろう。
 厨に行ったら、誰かしら居るだろうか。
宗三や堀川辺りが居たら、頼めば温かい飲み物を用意してくれるかもしれない。
 そう思いながら、誰にも擦れ違わないままぽてぽてと歩いていくと、思わぬ意外な人物が居た。
少し薄汚れた布を被った初期刀組の刀、山姥切国広であった。
 向こうも似たような格好をした者が現れるとは思っていなかったのか、驚いた様子で此方を見ていた。

『あれ…珍しいな。こんな処で何してるんだ?まんば。』
「お、俺はちょっとお茶でも飲もうとして来たんだが…勝手が分からなくてな。情けなくもおろおろと迷ってたんだ…。」
『そうだったのか。私も何かあったかい飲み物が飲みたくなって来たんだが…似たようなモンだな。今日は此処に来るまで誰にも擦れ違わなかったから、自分で煎れようと思ってたんだ。私で良いなら、お前の分も煎れようか?』
「あ、嗚呼…頼む。俺はあまり厨の当番にはならないから、物の配置とかに詳しくないんだ。すまない…主のアンタの手を煩わせて…。」
『別に茶ァ煎れるくらい構わないって。えっと…確かこの辺りだったよな、急須あんの。』

 山姥切の横を擦り抜けて厨の中へと入り、だいぶ本丸内にも慣れてきたのか、勝手知ったるやといった雰囲気でお目当ての物を探し当てた。
ついでに、何時も飲んでるっぽいお茶の葉が入った茶筒も見付けて手に取り、急須の中へと茶葉を入れる。

『あ…今更だけど、お茶で良かったんだよな?お前の飲みたいの。他にも紅茶だったり何なりあるみたいだけど…。』
「あぁ、お茶で構わない。他はあまり飲まないし、よく解らないからな…。そういった事は、俺なんかじゃなく、歌仙や光忠とかが専門だろう。…本当は同室の堀川辺りに頼もうかと思ってたんだが、捕まらなくてな。不慣れだが、仕方なく自分で煎れに来たんだ。」
『そうだったのな。堀川は何してんのかな…?』
「たぶん…洗濯じゃないか?」
『今日雨降ってるけど…?つか、今日に限らず、ここんところは雨続きじゃないっけ。』
「ウチには空いてる広い部屋が幾つかあるからな。其処を使って部屋干ししてると聞いた。洗濯機で乾かせるものは、乾燥機能を使って乾かしてるそうだが…。」
『あ、そうだったんだ。まだそんな部屋見て回ってなかったから知らなかったな。』
「アンタは何時も忙しそうに部屋に籠り切ってるからな…。知らなくても当然だろう。……ところで、その俺を真似たような格好の事は突っ込んで良いのか?」
『てっきり真っ先に気付いて突っ込んでくる事かと思ってたんだが?』
「え、や、変に触れても気に障るかと思って……っ。す、すまない…!」
『いや、そんな気にするような事でもないから謝んなって。でも、肌寒い時ってコレ意外とあったかくて良いな。まんばとお揃いみたいで面白いしな!』
「そ、そうか……。」


初出日:2021.04.24
加筆修正日:2022.01.11