自宅のドアの前、鍵を取り出そうと突っ込んだポケットの中で、指先が角張った何かに当たるのを感じる。なんだろうと不思議に思い取り出せば、少し折れた1枚の名刺。ああ、そう言えば久しぶりにこんなのも貰ったんだっけ。どんな人かも思い出せないなぁと思いながら、今度こそ鍵を取りドアを開けた。

リビングへ続く短い廊下。ふと感じる違和感。そう言えば私、ちゃんと電気消してから出て行ったよね?途端に酔いが覚めて、どういうわけか明かりの灯るリビングに、恐る恐る近付いた。


「あ。名前、おかえりー。」


ぱたんと閉じられたファッション誌。こちらに向かって笑い掛ける愛くるしい顔に、人の気も知らないで呑気に名前を呼ぶこの声を、確かに私は知っている。知ってはいるんだけれども。


「おーい、名前ってば。久しぶりの再会なのに、反応薄くない?」


おかしい。おかしいよ、私。見えてはいけない人が見えちゃってる。もしかして、これは夢?もしそうだとしたら、すっごくタチの悪い夢だ。それとも、今日の新郎新婦に自分たちを重ねてしまったから?ぐちゃぐちゃの思考回路を整理しようと必死に頭を働かせるけれど、答えはただ1つしか出て来なくて。


「…ほ、ほんとに臣なの、?」
「ふはっ。まじで言ってんの?俺のことなんてもう忘れちゃった?」


その言葉に首を左右に振れば、取れちゃうよって笑われて。貰った引出物も、小さなバッグも放り捨てて、彼の元へ飛び付いた。伝わる体温が温かくて、それがたまらなく嬉しくて、確認するように腕や首、頬に触れる。


「広臣、なんだよね。」
「うん。広臣です。」
「ちゃんと、生きてるんだよね。」
「…透けて見えたりしないっしょ?」
「もう、急に、私の前からいなくなったりしないんだよね、?」
「あの日はごめんね。ずっと会いたかったよ、名前」


ぼろぼろと溢れる涙を拭って、そっと私に口付けて。脳裏に焼き付いたあの日の光景は何だったのか。今は、そんなことどうだっていい。臣がまた私の側に戻ってきてくれたなら、彼が生きていたなら、何だっていいのだ。

久しぶりに感じた温もりに安心したのか、泣き疲れた私はそのまま眠りについた。


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