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「…みょうじ?」

校門から入ってくる背の高い集団に目を背けながら、その横を通り過ぎようとすると、懐かしい声がわたしの名前を呼ぶ。

「あ、かあし…」

若干どもりながらそう返す。
なんで彼がここにいるんだ、と考えているとミミズクのような髪型の人がわたしを見ながら赤葦に話しかける。

「赤葦ぃ〜知り合いかー?」
「はい。中学の同級生です。」
「こんにちは。」

赤葦が敬語で話すから先輩だと思い反射的に挨拶をする。部活というものを辞めてしばらく経つというのに染み付いたその習慣はなかなか抜けない。
よう!と特に気にした様子もなく返してくれて少し安心する。

「そいえば赤葦梟谷って言ってたね。強豪じゃん。」
「うん。みょうじはなんでここにいるの?」
「えっと、わたし音駒に通ってるの。」

端から見たら可笑しな会話だろう。だってここは都立音駒高校で、わたしは音駒の制服を着ている。後ろの梟谷の人たちもなに当たり前な事言ってんだ?って顔をしている。

でも赤葦のなんでここにいるの?は、どうしてわたしが決まっていた私立高校ではなく、さも当然に音駒の制服を身につけ、音駒の敷地内にいるのか、ということだ。

「木兎さん、先行っててください。すぐ行くんで」
「お、おう」

赤葦の言葉で梟谷の人たちは体育館の方へ向かっていく。気を遣わせちゃったかなと思い赤葦を見ると何か考えているような表情をしていた。


「……私立は?」
「あの、やめたの。バレー。」

バレーを辞めると決意してから、やめた、と言葉にして誰かに言ったのは初めてじゃないかというぐらいその言葉はしっくりこなかった。ああ、わたしバレーやめたんだ、と改めて思う。

赤葦には音駒に行くと言うどころか、違う学校に通うと伝えてある。進路を変更したことは、おそらく当時の担任と顧問の先生ぐらいしか知らない。誰にも伝えていなかった。


「そっか…。ねぇ、この後なにか用事ある?」
「いや、帰るだけだけど。」
「なら観に来ない?俺らの試合」
「え?」

なぜこの状況で誘われているのだろうか。辞めてから、テレビでさえバレーの試合なんてみてない。見れない、のである。

「いや、でもわたしバレーはもう…」
「観に来るだけでいいから。行こう。」

そういうとわたしの手をひっぱる。え、なにこれ?え、とパニックなわたしは突然のことに赤葦にされるがままの状態だ。


高校2年生の春
止まっていた時間が動き始めた。


開と進展


「あの赤葦が女の子とふたりにしてくれなんて…」
「てかあの子どっかで見たことねぇ?」
「言われてみるとみたことあるようなないような」



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