pm 1:00 体育館
ついにミスコン出場者による一大イベントである自由披露が始まる。
くじ引きの結果、わたしはトリをつとめることになっている。
このために作ってもらったドレスを身に纏い、舞台袖で待機しつつ緊張を落ち着かせる。
「今更だけど、ドレスにギターって合わないね。」
緊張しているわたしをみかねて、一緒に待機してくれている研磨が声をかけてくれる。
「そ、だよね。でも、まあ、ギャップ??」
「ん、それよりキンチョーしすぎ。」
「だって、思ったより人いるし!」
ガチガチに固まって研磨の言葉に返答するのに精一杯のわたしをみて研磨は笑っている。
「……笑わないでよ」
「死ぬわけじゃないし、なまえならダイジョブなんじゃない?」
「研磨が言うとダイジョブな気もしなくもない。」
「それに、俺たちの試合の方が緊張しない?」
「んーたしかに。」
試合の方がキンチョーするかも、でしょ、なんて話してるといつも通りの会話のテンポになっていた。
−−−−−
3番目の人が終わり、ついに残りはふたりになる。
わたしの前の人は、ちらっとこちらをみるとそそくさと舞台に立ち、披露を始める。
そして始まったソレに、違和感を感じる。
「ねぇ、あれあいるがやるはずだったやつでしょ?」
「あ、うん…。」
今目の前で行われているのは、わたしが披露するはずだったものだ。
「…まあ、たまたまかぶったんじゃない?」
「…そんなわけない」
なまえが前にいってた、睨んできたって人じゃないの、あのひと、と珍しく研磨が怒りを露わにする。
たしかにそうだ。まさかこんなことになるなんて。
元々わたしがやるはずだったのはギターの弾き語りだった。しかし同じ曲をギターは無いにしろ、前の人が歌っている。
連続でそれをやるわけにはいかないだろう。
どうしよう、とぶつぶつ考えていると、変更しよう、と言われる。
「へ、変更って、今更なにに…。緊張してこんがらがる。」
「緊張してるから、もうなにやっても同じだよ。なまえ昔よく俺とクロと3人で歌ってた歌あるじゃん。アレやろう。」
「え!?」
「時々ピアノ弾いてるよね?きこえるから。」
研磨が言っているのはわたしがピアノを習い始めてから、はじめてみんなが歌える歌をふたりの前で弾いたものだった。
「あの歌知ってる人、少なくない?」
「ダイジョブ。」
研磨のダイジョブにはとてつもない威力がある。
ほんとうに大丈夫だと錯覚させる、いちばん信用のある言葉だ。
「…研磨が言うなら大丈夫だね。うん、そうする。」
「それに、なまえにとってはそっちの方が思い出があってイイんじゃない?クロも気付くかも。」
「たしかに」
そうと決まれば頭の中でその曲をリプレイするだけだ。
何回も弾いてる。何回も歌ってる。ダイジョブ。
前の人が終わり、ニヤリと嫌な笑顔を向けわたしの横を通る。
わざとやったんだな、と思うがもうそんなこと考えている余裕もない。
わたしはやれることを全力でやるだけだ。
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