第01話 『神への祈り』



遠くで何かが聞こえる。

こんなにも近くでこの人たちは私に話しかけているのに、
今の私には届かない。


「名前ちゃん、おばさんが面倒見てあげるからおばさんの家にいらっしゃい。」

「ちょっと、何を抜け駆けしているの?名前ちゃん、絶対私の家の方が安心して暮らせるわ。私の家に来ない?」


醜い。
醜い。

なんてこの人たちは醜いのだろう。
私のために両親が残した遺産がそんなに欲しいの?


私は閉じていた瞳をゆっくりと開いて


「私は、一人で生きていきます。」


そう、呟いたのだった。




***




呆れたのか怒ったのか、「恩知らず」と私に言い残して帰っていった親族はまるで嵐のようだった。

両親が事故で死んで、ひとりぼっちになってしまった私にとっては雑音でしかない人たち。


「っ。」


泣いてなんていられないのに、頬を涙が伝う。


「私も…早く……逝きたい。」


私が、あの醜い大人たちから離れられる場所へ。



そう呟きながら、母親の形見である鏡を抱きしめながら、思い瞼を閉じてゆっくりと誘われる夢の中へ身を委ねた。




***




下へ下へと落ちる感覚に襲われて目を覚ませば、真上には気持ちがいいくらいの蒼い空。
なんか太陽が近い気がする。
…と、寝惚けた頭でぼんやり考えていれば、霧のようなものが私のまわりを纏った。
だがしかし、落ちていく私の体はすぐにその中から脱し、蒼い空と白い雲が視界に入った。

そう、蒼い空と白い雲…


「雲?!」


急いで下を見れば、どんどん近づいていく地面。

このまま落ちれば即死決定。

いやいやいやいや!!
さっきは確かに早く逝きたいなぁ…なんて思ったけどそんな痛そうな死に方はイヤだ!!
っていうか夢?
これは夢??

あ、なるほど美人薄命ってこーゆーことか!!
こんなことになるってわかってたら美人に生まれてこなければよかった。
でもま、これも運命…

って諦めきれるかい!!




***




「アーヤたん。」


滅多に無い二人だけの任務はあっけなく完了し、ホークザイルに乗って帰る途中、前に乗って運転しているヒュウガが後ろで腕を組んで座っているアヤナミに声を掛けた。


「聞いて聞いて!俺ビックリ!」

「…主語を言え。」

「あのね、女の子が空から落ちてきてるよ☆」





死ぬのに諦めがつかず、キョロキョロと周りを見渡せば、空飛ぶ飛行機…?とりあえず、乗り物が目に見えた。
あっちの2人も私に気がついたのか、やっほー。と前に座っているサングラスの男が私に手を振ってくる。


「助かった!」





「あ、手振りかえしてくれた。ねぇアヤたん。どうする?」

「放っておけ。」

「わー。アヤたんらしい答え。ま、人助けだなんて面倒だし、ガラじゃないもんね。」





希望の光が見え、両手で助けて。と振るが、一向にこちらに向かう気配が無い。

あ、れ??

え?
なんで通りすぎちゃうの?

ねぇ、なんで??
見えてんでしょ?
見えてるよね?
手ぇ振ったよね?!
っざけんなよ!!
私が死んだら真っ先にあんた怨んでやる!!





「ねぇアヤたん。あの子どうやって空から降ってきたのかなぁ?ホークザイルと一緒に落ちてるわけでもないのに…。」

「……ヒュウガ。」

「ん?」

「拾え。」





あーもう地上がもうすぐそこまで…
ごめん、神様。
早く逝きたいなんて言った私がバカでした。
悔い残りまくりだよ。


「私の、私のバケツプリンまだ食べてない!!」


叫んだ瞬間、私は見知らぬ男性の腕の中にいた。

よく見ればさっきのサングラスの男が前に座っている。

なにがなんだか訳がわからず目を丸くしていると、私を受け止めてくれた銀髪の男性と目があってしまった。

なんというか…


「紫の瞳…キレイ……」

「助けてもらって第一声がそれとは…のん気なものだな。」

「あ!ごめんなさい!ありがとうございます…って、ちょっとそこのグラサン!最初私のこと見捨てるつもりだったよね?!通り過ぎたよね?!」


身を乗り出して前に座っているサングラスの男性の首を半分本気に絞める。


「ぐえっ!だってアヤたんが放っておけって…」


その言葉に銀髪の人をちらりとみれば「私は拾えと言った。」と言われ、やっぱりムカつくのは前のサングラスだとなおも首を絞める。


「アヤたんひどい!!」


とりあえず運転手に死んでもらっては困るので、手を離して大人しく銀髪の男性の横に座ることに。


「ねぇキミ名前は?」


前のグラサンが馴れ馴れしく話しかけてきた。

「…名前です。」

「よろしくーあだ名たん。」

「名前です!」

「うん、わかってるよーあだ名たん。俺はヒュウガ。」

「え?くたばれグラサン?」


素敵なお名前ですね☆
貴方にぴったり。


「…なんか怨念が籠もってそうでやだなぁ…できればヒュウガって呼んでね。それから横の怖そーな人はアヤたんだよ、いだっ!!」


あれ?今なんかムチっぽいものが撓ったような…

気のせいか。


「アヤタンさん?」

「…アヤナミだ。」


あ、あだ名なんだ。
通りでヘンな名前だと思った。


「アヤナミさん、助けてくださりありがとうございました。」


これで冷蔵庫のバケツプリン、食べれます!!


- 1 -

back next
index
ALICE+