第02話 『願いゴト』
とりあえず難を逃れた私はバケツプリンのため…じゃなかった、これからの未来のために生きてみる事にした。
だって…あんな死にそうな目にあった後じゃ死ぬ気にもなれない。
思い出すだけで鳥肌と恐怖心で身震いしてしまう。
「あれ?あだ名たん寒い?」
「いえ、ちょっと死ぬ間際のことを思い出して…。ところでヒュウガ、今どこに向かってるのかなぁ…なんて思ってたり…」
助けてもらってから1時間くらい経っただろうか。
未だ訳のわからない見たことも無い乗り物に乗っている私たち。
「あとちょっとで着くよ。」
いや、だからドコに?!
「…じゃぁ…この乗り物はなに?」
「え?ホークザイル知らない?」
「ほ〜くざいる?」
「うっわ、頭悪そうな発音だね☆」
語尾に星がついてるあんたに言われたくないけどな!
横のアヤナミさんはさっきから目を瞑って黙ってるし、なんか…疲れる。
寝てるのかなぁなんてアヤナミさんの顔を覗き込めば、パチッと目が開いて不機嫌そうな視線がバシバシ感じるよ。耐え切れない…
「…おはよう…ございます?」
「別に私は眠ってなどいない。」
「…そ、そうですか……」
ほら、ほらね!!
耐え切れない!
見下しているような視線や不機嫌そうな声に、私のガラスの心臓がキシキシ言ってるよ!!
「まだ…着かない?」
「んー?見えたよ。ようこそ、ホーブルグ要塞へ。」
ほ〜ぶるぐようさい??
なに、ソレ?
***
ホークザイルから降りた私は、大人しくアヤナミさんたちの後について長い廊下を歩いていた。
すれ違う人に敬礼されているのは気のせいだろうか。
そんなに偉い人…なのか??
アヤナミさんはなんとなくわかるとして、もう片方は……ねぇ?
見えないよね。
「なんだ後ろの女は。奴隷か?」
え?私のこと?
声がした方を振り向けばそそくさと逃げていく軍人達。
ちょっ、ちょっと、訂正願います!!
「あだ名たん。気にしないでいいよ。あんなの虫の羽音だと思えば…」
思えるかい!!
奴隷だぞ?
言われて気持ちのいい言葉じゃないじゃん!!
心の中でなんだかモヤモヤしたのが広がる。
そんな私の気持ちにお構い無しに、2人は一室に入っていった。
私も後に続いて入れば、部屋の中にいた他の人に目を向けられる。
なんとなく居づらい雰囲気の中、アヤナミさんは一番偉そうな人が座るソファに腰掛、ヒュウガは眠そうにあくびをしながら「コナツただいまー」と可愛らしい男の子にくっついていた。
…あぁ、もしかしてLOVEですか?
「こっちへ来い。」
アヤナミさんの声がして、誰を呼んでいるのかと立ち往生しているとまたもや紫の瞳と目が合った。
あ、私ですか?
シーンと静まる部屋。
誰か何かしゃべって!!
「名は?」
苦しい静寂を破ったのはやはりアヤナミさんだった。
しかし…その質問にはさっきお空の上で答えたはずなんだけど…
「え?」
「名は?」
「…名前。」
これが噂の若年性アルツハイマー??
うぉう、初めてみたぜ!
「年は。」
「それ、…女性に聴くのはルール違反だとおもいまーす。」
少しくだけた感じで応えると、周りの視線が驚きに変わった。
あれ?なんか…変なこと言った?
だって女性に年齢聞くのはダメでしょ。
「そうだよねー。あだ名たん女の子だもんねー。アヤたん失礼だよ!!ねぇ、ちなみにあだ名たん、生まれて何年目?」
「…いや、聞き方変えてもやってることは同じだよね、それ。」
あだ名たんするどい!!と茶化してるのかマジメなのかわかんないヒュウガ。
「じゃぁさ、あだ名たん乙女?処女??」
「セクハラっすか?」
セクハラ男なんかゴキブリの次に死んでしまえと思ってる今日この頃…
「少佐!!なに聞いてるんですか!!」
さっきヒュウガにコナツと呼ばれていた子が声を荒げた。
「貴女もさっさと質問に答えた方が身のためですよ!」
なんだよ身のためって。
別に…
バシンッ
いいィいい今!!
アヤナミさんのほうから
風が!
ムチが!!
私の横をぉぉぉぉ!!
あんなので叩かれたらひとたまりも無い!
それこそ私が奴隷のようだ。
「じゅ、19になりたてのほやほやです!!」
「住居はどこの区だ。」
区?
え、区ですか??
うち田舎なんで区はないんですよね。
あえて言うなら…市??
「市じゃだめですか?」
「市?ふざけてるのか?」
「えぇ!だって日本で区なんて東京とかだし。私が住んでるところは市だし。あ、それとも町とかのほうがいいですか?」
またもシーンと静まり返った部屋。
なんか…まずった??
「日本?東京?あだ名たん、そこどこ?」
「ふざけているのなら…」
ぎゃー!!
ムチを出すのはヤメテ!!
「ふざけてない!断じてふざけてない!!私の住んでる国は日本だもん!!だいたいホーブルグ要塞って何?ここどこの国?!ホークザイルなんて私知らないし見たことない!!っていうか…最初から気になってたけど…………コスプレみたいだよその服!!」
バシンッ。
「ぎゃー!!痛いっ!」
アヤナミさんのムチが左腕に直撃。
あぁ、赤くなってる!!
「おおお乙女の柔肌になんでことすんのよ!」
「あ、やっぱり乙女なんだ。」
「ヒュウガは黙ってて!!」
私に怒鳴られたヒュウガはちぇッと舌打ちした。
「だいたい眠っていたはずなのに、空から落ちてるし、夢だよねコレ?夢でなんでこんな暴力受けないといけないの?!」
そんなに酷くなかったとはいえ、まだ腕がヒリヒリする。
ヒリヒリ……え?
何で痛いの?!
夢なら痛くないはずじゃん!
ってことは…夢じゃ…ない??
「じゃぁ……私。トリップしちゃったの?」
「……なるほど。異世界から来たと。」
「え、でもちょっと待って!え?なんで??どうやって?なんで私が??」
なんで私が……
あ…でもそういえば……
『私も…早く……逝きたい。』
私が、あの醜い大人たちから離れられる場所へ。
…私の願いのせいか?!
まじで?
神様それ叶えちゃった?
確かに離れたかったけど、ケド!
来たかったのはここじゃないから!!
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