第04話 『世界の表と裏』




こっちの世界に来て、
唯一持っていたのは母の形見である鏡だけ。

よく空から落ちるときに落とさなかったなぁ…と自分を褒めてあげたい。

形見であるそれは、
いつも肌身離さず…持っている。




***




「お休み?」


やっと自分の制服が届いたと思ったら、今日は休んでいいと言われてしまった。


「そうだ。」


でも休みなんて貰ってもすることなんてないし…


「街に下りてみてはどうですか?女の方なら日用品とかも必要ですし…」


ハルセさんはそう言ってくれるけどお金なんて持ってないですよ。
あーやっぱり世の中金だよね。


「これはお前の通帳だ。」

「へ?」


アヤナミさんから受け取った通帳を見れば、たった5日働いたにしては多すぎるぐらいのお金が振り込まれていた。


「い、いや…あの……これ、誰の通帳??」

「お前のだ。」

「…もう一回聞きます!これ誰のつうちょ「いらないのならこちらで処分するが。」…誰がいらないといいましたか!!」


いります!
でも…


「5日働いただけなのに…なんか多くないですか?」


バイトはしたことあるが…その時のお給料はせいぜいこれの8/1がいいところだ。


「雑用とはいえブラックホークで働いている。それが正当な給料だ。」

「…はぁ、…そうですか。」


雑用の私がこんなに貰ってるってことは、じゃぁあなたたちは一体いくら貰ってるんですか?!

ツッコミたい!
でもお金に関することは…なんか、なんかみっともないし…


「あだ名たん街に行くの?」

「えっ?」


やばいやばい。
口開きかけてた。


「行って見ようかなと…」


お金もあることだし…
私服とか小物も欲しいしね。

だって自室殺風景なんだもん!!


「俺もついていって…」

「少佐!!仕事が残ってます。」


コナツに叱られるヒュウガはなんだか面白い。


よし!
お仕事頑張ってるみんなにお土産でも買ってくるか!!


「いってきます!」




***




ホークザイルにまだ乗れない私は、とりあえずカツラギ大佐に街まで送ってもらった。
とりあえずお昼も近いし、適当に飲食店に入れば「いらっしゃいませ。」と高めの声をしたウェイトレスさんによってメニューが差し出される。


「ど・れ・に・し・よ・う・か・な。コレ!」


えっと…何々…


「このアイフィッシュシチューと、雑穀パン下さい。」


フィッシュってことは魚だよね。

見た事の無いメニューも結構あった。
次来るときは別のメニュで、いろいろ制覇していこう!!


「お待たせしました。」


出てきたのは目玉?!

は?!
え、え?ちょっとお姉さん…なんか間違ってません?
嫌がらせですか??

てか、これ食べ物ですか??


そりゃ小さい頃は魚の目玉の回りのプルプルしたやつ食べてたような気もするけど、さすがに今はムリっすよ!

でかいし!!
なんつーグロテスクなもんだすの?!


「絶対ムリ…」


アイフィッシュを横に除けて、雑穀パンだけ食べる。
あ…このマーガリン上手い。

…もしかしたら…アイフィッシュも美味しかったり??

いやいやそんなはずないっしょ。
でも…せっかくお金払うのに…勿体無い…

と、とりあえずスープだけでも…




うっわ、美味しい!!
なに、これこの目玉の旨み??
…よし!


「グリンピースよりマシだよね。」


フォークでプスッと差し、目の前まで持ってくる。
なんか目玉の親父食べてるみたいだよ。


「ごめんよ、父さん。」


思い切って口の中に入れ、租借。
くそう…なんでこれが美味しいんだ!!




***




お金を払い店の外に出ると、少し薄暗くなっていた。
初めて街にきたのに…雨が降りそうだ。


「少し急ごうかな。」


少し早々に街を見て回る。

一人で買い物してる人もいるが、どちらかというと恋人同士で歩いている人のほうがよく目に入った。

腕を組んで歩いたり、洋服を選びあったり…
いいなぁ……なんて、たまには女の子らしいことも思ったり。


「カップル意識しすぎだよ、自分。」


恋人がいなかったといえばウソになる。
でも誰とも長続きはしなかった。
別に悔いが残ってるわけじゃないけど…
あんなふうにラブラブしたかった!!

急に一人で歩いていることに孤独感を感じてしまった私は、あまり人気の無い方へ。


気がつけば薄暗い路地に私はいた。
ただでさえ空は暗いから、周りが暗すぎてよく見えない。

っていうことで、名前ちゃん迷子です☆
誰かカッコイイおにーさんとか声掛けてくれないかなぁ。

お茶とかどう?って。
ナンパかぁ…死ぬまでに一回くらいはされてみたいもんだわ。


地面の石を蹴り飛ばしながら歩いていると、ビルの片隅で泣いている女の子が目に入った。


「…ねぇ、迷子?」


迷子だったらどうしようかと思う。だって私も迷子だから…
あ、2人して迷っちゃう??

2人なら怖くないよね!


「だぁれ?」


女の子は私を見るなり、少し怯えたような目つきになった。


「私は名前。ねぇ、キミ迷子?」

「おねーちゃん、私のこと捕まえにきたの?」


質問を質問で返されて、会話が成り立たない。


「捕まえに?どうして??」

「わ、私が…奴隷だから…。」


…あぁ。
よく見ると、服も髪もボロボロ。
体のあちこちに青い痣まであった。


「逃げて、きたのね?」


コクンと頷く女の子を、私はそっと抱きしめた。
ビクッと怖がる女の子。


「や、やだ…はなし、て…」

「大丈夫。私は何もしない。あなたの嫌がることなんてしないから。」


ゆっくりと頭を撫でてやれば、女の子は少し安心したのか体をあずけてきた。
私の服にしがみ付くその小さな手。
まだ10歳ぐらいなのに、こんな仕打ち…

奴隷…


「ねぇ、貴女の名前は?」

「ル、ルミナ。」

「そう、いい名前だねルミナ。……ねぇルミナ、私のところに来る?」


19歳でシングルマザーかぁ。
どちらかというと姉妹だよね。


「私は貴女を殴らないし大切に育ててあげる。」


奴隷の一人拾ったとしても何も変わらないこと、分かってる。
人間を一人育てるのも大変だってわかってる。

でも言わずにはいられなかった。
ここは表と裏が激しすぎる。


「…来る?」


私と一緒に。


「…ごはん、食べさせてくれる?」

「うん。お腹いっぱい食べていいよ。」

「おべんきょう、したい。」

「うん。学校に行かせてあげられるかはわかんないけど、いっぱい頭のいい人いるから、その人たちに教えてもらおう。」


コナツ、よろしく!!
仕事増やして怒られちゃうかなぁ。


「…愛して…くれる?」

「ルミナが困っちゃうくらい愛してあげる。」

「いく!おねーちゃんと生きたい!!」


やっと笑顔が見れた。と思った瞬間だった。


私の右腕をかすめたそれは、ルミナの心臓を貫いていた。

一瞬にして苦痛に歪むルミナの顔。



―――――――え??



…刀??
思考が停止している私を尻目に、ルミナの体が力なく硬い地面に倒れた。


「やっと見つけたぞ、この奴隷め!よくも俺様から逃げやがって!!」


倒れたルミナを足蹴にしてる見知らぬ男。

もう、ルミナはピクリとも動かない。
それでも男は蹴り続ける。


この男は…ナニヲシテイル??
ルミナは…もう…死んでるじゃない!!


「や、やめてよ!!」


ルミナを蹴る男の腰にしがみついてルミナから引き離す。


「もう死んでるじゃない!もうやめてよ!!」

「なんだクソアマ。コイツは奴隷なんだ。奴隷のくせして俺様から逃げやがって…」


やだやだやだやだ。


男の靴についている泥でルミナの顔や体が泥まみれになっていく。


「やめてってば!!」


思いっきり男をグーで殴れば男は標的を私に代えたらしく、私を突き飛ばした。

ルミナを刺した時に一緒に切れたのであろう、右腕から滴る血が地面の砂と混じりあう。


赤い、
紅い血。

ルミナの周りにもたくさんの血が溢れている。


この男さえいなければ…


「…あんたさえいなければ……ルミナはもっと愛を知れたのに!!」


右腕から出ていた私の血が、鋭い刃物のように男の肩を貫いた。

肩から脇腹、脇腹から太もも…

鋭利な刃物のような血は男を無惨にも切り裂く。

悲痛な叫び声。
鼻を差す、血のにおい。


このまま殺してしまおう。と思った瞬間、ポケットに入れていた形見の鏡が地面に落ちた。


「…」


そこに映る自分。

一気に脱力した。
腕から出ていた血は私の体に入ることなく地面を真っ赤に濡らす。


「おかあ、さん……」


鏡を拾った瞬間、私は自分の部屋にいた。

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