02 あたし専用!
いつもお菓子と一緒に出されるカップは私専用だ。
カツラギさんが私のために買ってくれたらしい。
そういえば前からお茶を飲むとき『いつもこのカップだな〜』なんて思っていたけれど、そんな事実を知ったはたった今。
私が「このカップ可愛いよね」と呟いたからだった。
その言葉に反応したヒュウガがそんな素敵事実を教えてくれたのだ。
「マジでか。」
「知らなかったの?」
「知らなかった。」
素敵事実すぎる。
やばい顔がにやけてしまう。
どうしてカツラギさんはこんなにも私の胸を高鳴らせるのか。
「お待たせしました、今日のおやつです。」
おやつを取りにいってくれていたカツラギさんが私の元へ戻ってきてくれたその瞬間、私は弾け飛ぶようにしてカツラギさんの腰に抱きついた。
「カツラギさん好きー。」
「急にどうしたんですか?」
苦笑するカツラギさんは机におやつを置きながら私の頭を撫でた。
温かくて、大きな手のひらだ。
「離してもらわないと座れません。」
「じゃぁ座んないでー。」
冗談めかして笑いながら抱きつくのをやめると、「いい子ですね」とまた頭を撫でてくれた。
ピンクの花柄という可愛いカップも、優しくて温かいこの手も、私専用だ。
「ご機嫌ですね。」
「うん!新事実発覚に幸せなんですよ〜」
「新事実?」
「知りたいですか??」
「えぇ。」
「どうしようかな〜。」
「そう言われるととても気になりますよ。」
大人なカツラギさんは、私の意地悪な笑みにもニコリと微笑んで、これまた大人な発言をしてくれた。
きっと私だったら『別にそこまで知りたくないし。』と意地を張っていただろう。
カツラギさんと一緒に居るとすごく幸せになるけど、大人と子どもの境界線がとてつもなく遠く感じることもある。
「あのですね、このカップ、カツラギさんが私のために買ってくれたんだって知ったんです!」
お茶の入ったそれを掲げながらそういうと、カツラギさんは私よりも嬉しそうに微笑んだ。
「あれ?カツラギさん嬉しそう。」
てっきり、少しくらいは照れて恥ずかしがると思ったけれど、まさかの反応だ。
「えぇ、嬉しいですよ。」
「どうしてですか??」
「名前さんが喜んでくれたからです。」
恥ずかしがらなかったカツラギさんの分まで私が恥ずかしがった。
机に顔を伏せ、金魚のように全身を真っ赤にさせて悶える。
「あの時買っておいてよかった。それほど喜んで貰えたなら私もそのカップも幸せものですね。」
も、もういいです…。
恥ずかしすぎて嬉しすぎて死にます。
悶え死にます。
誰か…誰かカツラギさんを止めて…。
助けを求めるように皆の方を見ると、皆書類に向かっていた。
あれだ、最近よくあるスルーってやつだ。
前までは苦笑して頬を赤くしていたハルセさんやコナツくんも、茶化したりしていたヒュウガも、今ではスルーというスキルを手にしたらしく、最近はこんな雰囲気になると見てみぬフリを実行する。
クロユリくんとアヤナミさんは前々からスルーだったから、今更気にならないが、これはこれで辛い。
「あのー皆様…」
「名前さん?どうかしたんですか??」
「イエ、なんでもないデス。」
どうしたんですか、と当事者に聞かれても困ります。
私は、こうなりゃ逃げ場所は一つだ。と、机の下に隠れた。
「何してるんですか?」
「ちょっと引きこもりになりたくなったんです。気にしないで下さい。元々狭いところ好きなんで。」
「でも、そこに居るとせっかくの抹茶アイスが溶けてしまいますよ?」
あぁ!
それだけはイヤだ!!
「私のアうごっ!!」
私のアイス!と叫びたかったのに、なにかが潰れたかのような声が机の下に響いた。
さすがにカツラギさんにも聞こえただろう。
私のヘンな言葉と、ゴンッという鈍い音が。
「大丈夫ですか??」
「う、ぅぁ…ぐぁ…」
立ち上がる際、私は頭を机にぶつけたのだ。
今は一人、さっきとは別の意味で悶えている。
「冷やしますか?」
「いえ…そこまでは。」
痛かったー。と立ち上がると、カツラギさんの手が未だジンジンとしている頭を撫でた。
「痛いですか?」
「ちょっとだけ。」
あ、でもこうして心配されて撫でられるんだったら、なんか怪我するのもいいかも。
なんて思った私は相当馬鹿だ。
今ぶつけたせいで絶対頭のネジが落っこちたに違いない。
「ここらへんですか?」
「もうちょっと右です。」
「ここですか??」
「少し後ろ…」
「あぁ、少し腫れていますね。やっぱり冷やしましょう。」
優しく撫でられながら、私は躊躇いがちに頷いた。
冷やすより何より、
このまま撫でられていたかったの
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