05 永遠は一瞬の積み重ね



以前カツラギさんと一緒に帰った道を今度はハルと歩き、家近くの公園へとつま先を向けた私達は、今究極の局面に訪れていた。
つまるところ、お話しで解決はできなかったということだ。

昔の友人たちを引き連れている今のトップは、どうみても頭の悪そうな奴。
なんでこんなのを慕っているのか分からないが、もう私には関係のないこと。


「じゃぁハルは抜けさせてくれないってこと??」

「まぁ、そういうことだな。」


男のくせにネチネチとしている。
ハルはすっかり怯えきって私の後ろに隠れているが、これのどこに怯える必要があるのかわからない。


「ハル、堂々としてな。」


ほら、忘れたわけじゃないでしょう??
私が、


「じゃぁ殴り合って私が勝ったら…、ハルを抜けさせてくれる?」


私が喧嘩に強いって事。


「へぇ殴らせてくれんのか?」

「冗談。女に伸されても文句はいわないでね。」


調子に乗るな!と最初に手をあげてきたのはもちろん彼。
私はそれを難なく避けると相手の側面に回りこみ、わき腹に蹴りを一発いれた。
スカートだけど…まぁ、気にしない。

地面に倒れ、咳き込む彼を見下ろす。
それはそれは息ができないことだろう。
結構本気でいれたし。


「人を使わずに私とタイマン張った貴方には敬意を表すけど、私の勝ちってことでいい?」

まだ咳き込んでいる彼から返事はない。
この様子じゃ肋骨一本くらい折れてるかも…もしくはひびが入っているかもしれない…やばい、やりすぎた。
肋骨はひびが入りやすいから困る。

しかしまぁ、無言は肯定と取らせていただきます。


「ハル、帰ろっか。」

「ありがとう名前!!」


飛びつきながら首に腕を回されて、ぐえっと首が絞まった。


「ちょ、ハル絞まってる絞まってる!」

「ありがとありがとありがとー!」

「はいはいはいはい。もうこういうのはこれっきりにしてよ??」

「するする!!」


ものすごい勢いで頷いてはいるが、ハルの言葉は耳半分で聞いた方がいい。


「じゃぁそろそろ帰ろう、もう暗くなっちゃうから。」

「………名前、ホント変わったね。」

「そう??」


そういって踵を返すと、そこにはここにいるはずのない人が立っていた。
まだ警察とかそんなのがマシだったかもしれない。
逃げ足も結構早いし。
だけど今は上手く逃げられそうにないほど足が凍ったように動かない。
どこから見ていたの、とか、何でここにいるの、とか、聞きたいことはたくさんあるのに口も微かに震えるだけ。


「…名前??」


ハルが微動だにしない私を見て首を傾げる。


「名前??どうしたの?あの人知り合い??」


お願いだから黙っててくれ!!
私はこの状況をどう打開しようかと必死に考えているのに、ハルはヘラッとしている。
なんだかヒュウガみたいだ。

そんなことを思っていると、私の背後で蹲っていた不良のトップがムクリと起き上がった。
ジャリ、と砂を踏む音がして振り向くと、彼は私に向かって拳を振り上げていた。
目先のことに囚われすぎていた私はそのことに気付くのが遅れ、覚悟を決めてきつく瞳を閉じ、歯を食いしばる。
なのに、いつまでたっても痛みと衝撃が訪れることはなかった。


「帰りますよ。」


変わりに降ってきたのは優しい声色。
閉じていた瞳を開けると、私を殴ろうとしていた彼は地面に倒れており、カツラギさんが倒してくれたのだろうけど、目を瞑ってしまっていた私は彼が何をしたのか全くわからなかった。

呆気にとられている私の手を掴んだカツラギさんが歩き出したので、自然と引っ張られる私は抵抗もせずにただただ付いて行く。
カツラギさんはやっぱり何も聞かない。
それは無関心というわけではないことは分かっているけれど、少しくらい何か言ってくれないと不安になるもの。


「カ、カツラギさん…、何であそこに…」

「名前がバックを忘れて帰られたので届けに。」


薄暗くなってきた岐路でカツラギさんは立ち止まり、私にバックを差し出した。
まさかバックを忘れてしまうなんて。
私の馬鹿。


「ありがとうございます…」


それを受け取りながらカツラギさんの顔色を伺う。
少しだけ怒っているようにも見える。


「…あの、どこから見て…」

「そうですね、ちょうど名前さんが彼の脇を蹴ったところでしょうか。」


微妙なタイミングすぎて私の顔色はサッと青くなる。
一番見られたくない人に見られてしまった。


「怪我はしていませんか?」

「…うん。」


あぁ、悪いコトはできないものだ。
しかし、しみじみ思いながらも私は後悔していない。
だって後悔したら、友人を助けた私にも、ハルにも顔向けできない。
別に友人を助けたんだから恥ずべきことはしていない。
ただ、カツラギさんには顔向けできないんだけど。
私は約束を破った。
喧嘩をしないという約束を。
不良になったわけではないけれど、約束は約束だ。


「…私、カツラギさんとの約束破ったから……別れる??」

「友人を助けるためだったのでしょう??名前さんに抱きついた彼女は喜んでいました。名前さんらしいです。」


カツラギさんは俯いている私の頭に手を置いて撫で始めた。


「私は名前さんのそういうところ好きですよ。助けを求める声を放っておけず、多少無茶をしても助けてあげようとする名前さんが。」


罪悪観が一気に吹き飛び、私は俯いているその顔を赤くさせた。


「ですが、…」


え。ですが、何??と顔を上げると、優しく抱きしめられた。


「あまり無茶はしないで下さい。女性なんですから生傷の耐えないようなことはやめて下さいね。返事は??」

「…はい。」

「いい子です。」


何だか子供扱いされているようにも思えたけれど、それ以上に嬉しい。


「あまり心配させないで下さいね。」


心配してくれたんですね。
心配かけてごめんなさい。
でも、心配してくれたことがとても嬉しいんです。
このまま時が止まってしまえばいいのに。
頭を撫でられて、手を繋いで、抱きしめられて。
こうした一瞬一瞬が積み重なって永遠になっていくんだろうか。


そしていつかキスするその一瞬も、
永遠の積み重ねになればいいと思った。



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