END きすみーぷりーず!



前回のあらすじ。
クラスメイトのユキに、カツラギさんといちゃこらしているところを見られた私達。
次の日学校に行くと嫌味を言われまくり、放課後の帰り道『援交』だと言われてキレた私は、ユキを鞄という凶器で殴った。
そこに光り輝く正義のヒーロー、カツラギさん現る!

ユキに『女性の扱いを覚えて出直してきてください。』というなんとも大人な発言をしたカツラギさんに、私の心も目も釘付け。
惚れ直したその瞬間に泣きそうな私をホークザイルに乗せたカツラギさんは、そのまま軍へと一緒に帰りましたとさ。
引き続き、泣きじゃくり名前さんでお送りいたします。


「カツラギさぁぁん。」


ズビズビと鼻を鳴らし、グズグズと泣きじゃくる私に苦笑しながらカツラギさんはティッシュを箱ごと渡してくれた。
それをありがたく受け取って思い切り鼻を噛む。
丸めたティッシュをゴミ箱に入れ、新しいティッシュで今度は涙を拭いた。


「少しは落ち着きましたか?」


頭だけは縦に頷くが、誰の目から見ても落ち着いていないのは一目瞭然だった。
そりゃぁ恋人との間柄を『援助交際』と言われたら腹立たしくなって泣きたいに決まっている。
しかも、


「どこから見てました??」


デジャブだ。
間が良いのか悪いのか、カツラギさんはナイスタイミングなところでバッタリと出くわす。


「そうですね、『ユキの方が馬鹿のくせに』と言った辺りからでしょうか。」


ということは、だ。
その後にユキが口にした『援交』もカツラギさんは耳にしているというわけだ。
そう思うと更に涙が溢れてきた。
カツラギさんの自室で妙に落ち着くし、もうこのソファ、涙でグショグショにしてしまおうか。


「ごめんなさいー。」

「何がですか?」

「ユキのことは明日殴っておきますからー!」


私がそういうと、カツラギさんはピンと察したように苦笑した。


「気にしていませんよ。事実、周りからそう見えることは仕方のないことです。」


カツラギさんはわかりきっていたとばかりに微笑んだ。


「全然違うのに!私たちキスだってしてないのに!」


まるで私のおままごとのような恋愛に付き合ってくれるカツラギさん。
おままごとでさえ冗談めいてキスくらいはするだろう。
だけど、カツラギさんはキスさえしてくれない。

それはそれでよかったんだ。
だってキスなんてしなくても、セックスなんてしなくても、きっと通じるものがあると思っていたから。
それでもたまに無性にキスがしたくなるときだってあった。
何でしてくれないんだろうって思う時だってあった。
だけど、私はそれでいいと思っていたんだ。
つい先程までは。

不安になる。
きっとこれから先、一緒に歩いているだけで周りの目が気になるだろう。
そう思うと、不安を打ち消すかのようなキスが欲しいと思った。
手を繋ぐだけじゃ足りない。
抱きしめるだけじゃ足りない。
傲慢にも欲張ってしまう。


「名前さん、私は周りからそのような目で見られても気にしません。だって私は名前さんを好きですし、名前さんも私を好きだと言って下さっているでしょう?」


カツラギさんの優しい問いかけに必死に首を縦に振る。

好きだ。
大好きだ。
この気持ちは誰にも止められないくらいに。


「ならそれでいいんです。周りからどんな目で見られようとも、愛し合っているのならそれが真実ですよ。」


ポンと頭にカツラギさんの手が乗った。


「誰にも変えることの出来ない真実です。」


私は隣に座っているカツラギさんの腰に抱きついた。
またじんわりと浮かんできた涙をカツラギさんの服が吸い取っていく。


「嬉しいです…。カツラギさんがそういうふうに思っていてくれて…。だから、今すぐ結婚しましょう!」


私は思い切り顔を上げた。
すると、驚いているカツラギさんの顔が目に入った。


「学校も退学する!そうしたら援交とか言われないですし!あ、でも結婚するにはお金が必要か…。…ん〜結婚したらパートする!それに今からだってバイトするよ!!三食添い寝付き!!お買い得ですよ!!」


何の売込みだ、とカツラギは内心盛大に噴出していた。
そのことに私は必死すぎて気付かないのだけれど。
もちろん、これが逆プロポーズなるものとさえ気付いていない。


「名前さん。」

「何ですか?」

「学校はちゃんと行って下さい。」


すっかり涙の止まった私の背中をカツラギさんが撫でる。


「卒業までもっと世の中を見てください。いろんな人と話して、学校では学べないことも今のうちにたくさん学んでください。卒業するその時まで、それでも私の事を好きでいてくださるならよろこんで結婚しましょう。その時が来たら、ちゃんと私のほうから言いますから。」

「…その時まで、私の事好きでいてくれる??」


まだ半年はあるよ??


「えぇ。こんなにも名前さんのことを好きなんですから、5年先も10年先も20年先だってずっと、ずっと名前さんのことを好きでいられる自信がありますよ。」


カツラギさんの無骨な指が私の頬にかかる髪を耳に掛けた。


「結婚する暁には金銭的な事は気にせず、身一つでお嫁にいらしてかまいませんから。」


すげぇ。
こ、これが大人の余裕ってやつか…。


「これって婚約?」

「まぁ…そういうことになりますね。」

「堂々としてていい?」

「もちろんです。恥ずべきことなんて何一つないんですよ。」


でも、とカツラギさんは言葉を続けた。


「名前さんが卒業するまでは清いお付き合いでいましょうね。」

「えぇ?!!?」


私が叫ぶと、カツラギさんは苦笑した。


「そんなにショックですか?」


っは!!
私ってば、はしたない子みたい?!?!


「そんなことは……ない……というのはウソで、でもやっぱホントで、その…」

「どっちですか?」

「ショックです。」


クソ真面目に言えば、噴出された。


「な、なんで笑うんですかっ?!?!」

「あまりに名前さんが可愛すぎて。そうですねぇ、…では目を瞑ってください。」


私が首を傾げると、カツラギさんは小さく微笑んだ。


「何するんですか?」

「知りたいですか?」


そう言うなり、カツラギさんは私の唇に唇を重ねた。
一瞬、時が止まったかと錯覚さえ起こす。

そっと唇が離されても、私は未だ顔を真っ赤にさせて固まったままで、あんなにして欲しかったのに、してもらったらしてもらったでどう反応したらいいのか全くわからない。
わからないというより、思考回路がショートしていて考えきれないと言った方が正しいかもしれないけれど。
なのにカツラギさんは「キスする時は目を閉じるものですよ?」と余裕綽々な表情。


「は、はい…。」

「いい子ですね。さすがにこれ以上は犯罪なので、続きは名前さんが卒業してからですね。」


よしよしと頭を撫でられる。

続きって…何か色々想像できないくらいに恥ずかしいんですけれど!!
触れるだけのキスだけでもう頭がいっぱいだ。
今日は絶対眠れない。
寝不足決定だ。

私は頭を撫でられるままにカツラギさんに抱きついた。
嬉しいのと恥ずかしさの入り混じった複雑な気分をぶつけるように。
そして、赤い顔を隠すように。

手を繋げば優しさを感じ、唇を重ねれば愛おしさを感じた。
その先はまだ怖いけれど、触れなくても感じことができる優しさも、私は大好きなのだ。
だけど、これは…かなりクセになりそう。


「カ、カツラギさん、」

「はい?」

「もう一回、」


きすみーぷりーず!!


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