目眩がした。







流刑地であったこの島は現在、
地図から名前を消され、
世界政府の極秘基地として存在している。




暗く、狭く、冷たい箱部屋に、所狭しと並ぶ2段ベッド。



ルッチは一番奥の窓際に寝床があった。


自分にも親がいた気がした。
ここではないどこかで生まれた。

だが、ものこごろついたときからこの島で暮らしている。


日々怒鳴られ、怯え、肉体を酷使し、死んだように眠る。朝になればけたたましい呼笛で起こされ、また眠る。


繰り返しの毎日。



楽しみもクソもないこの生活で彼にとって唯一ひとりになれるのが、就寝前、窓から見える星を眺めるときだった。


この時間だけが、自由。










今夜も窓の外を見る。




ルッチはまだ、
六式を習得できていなかった。



六式ができないと「正義」にはなれない。





どうしたらいつでもできるようになるのだろう。





目眩がする。






今日は雨が降っているので星がよく見えない。


横殴りの雨。


教官に殴られたときみたいな雨。


右ほほが痛い。


背中が痛い。


頭が痛い。


脚が


腕が


首が


指が


今日の傷が


昨日の傷が


目眩が。






そう目眩が。


目眩がする。





殴られた時、
打ち所が悪かったのだろうか。
寝床に入ってから、止まらない。






窓に水滴が流れている。






目眩がする。



雨のせいでいつも見える満天の星が見えない。


でも、
雨の中でも分かるくらい、
一つだけ大きく光る星。



一番星だろうか。



目眩がする。



こんな一番星、見たことがない。



目眩がする。




加えて頭痛。
心なしか体も熱い。
それと、


目眩。




目眩がする。





目眩がする。





目眩が






めまいが






めまい、が






めまいが


















六式もできない自分。


海に囲まれた孤島で、
逃げることもできず、
意味もなく振るわれる暴力。


ここではないどこかで、
いつか
「正義」とは何か
自分にもわかる日がくるのだろうか?










ああ、それにしてもひどい目眩だ。





もう考えるのはよそう。




きっと寝たほうがいい。







でも窓の、一つだけ見える星から目が離せない。




吸い込まれるようにーーーーーーーー




気を失ったようにーーーーー





ねむる。









このときロブ・ルッチ、11歳。

孤独な少年を取り巻く環境は、
あまりにも厳しかった。



どしゃぶりの中、
鈍く光る一番星だけが、


空っぽの寝床を見つめていた。





ああ、今夜も一番星の雨に打たれて眠りたい






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20161114


補欠選手!