君と、雨





「嘘でしょ傘持ってないんですけど」




仕事から上がると外はどしゃぶりだった。
時刻21時16分。



「誰かさ、教えてくれてもいいじゃん」



今日の夜は雨ですよー、とかさ。
昼は降ってなかったのにねー、とかさ。



ひとり暮らしを始めて早数年。

仕事ばかりでここ最近、
寝るためだけに帰る毎日。

実家からは、米と野菜だけは定期的に送られてくるので本当に助かっている。


他の会社の友達は彼氏とか旦那さんにメシ作ってるっていうのに…

自分に料理作るのすら億劫な気分…



あああああああああこんな社畜だから彼氏できねーんだよ!
トキメキ少ねーんだよ!
世の中おかしーよ!
私だって誰かのためにメシ作りてーわ!!


仕事押し付けてきたあのクソ上司いいいい!



婚期逃したらテメェ責任とれよマジぶっこ…



「ミョウジ?」



突然後ろから呼ばれ、ビックリした。

いや後ろからで良かった。

いま前から私の顔見られてたら殺人的表情でした。


「…パウリーさん」

「まさか傘ないのか?」

「ええ、やっちまいました」

「お前も運悪ぃなー、これからもっと降るらしいぜ?」


そうなんすねー、これも全部、
”今日は華金だー!”
って仕事をみんなに丸投げして一番に退社したあのクソ上司のせいですかね、アハハ。

なんて思いながら、
渇いた笑いだけで答える。


いや笑顔引きつるわー!




「と…、とりあえず…こっち……入れよ。駅まで入れてやる」


「…え?」


「ないよりマシだろ!?こんな雨ん中…」





紳士なの?ねえ紳士なの?



駅までパウリーさんの傘に入れてもらった。

パウリーさんは終始、
「濡れるぞ!もっと中入れ!」
って自分の肩濡らしながら傘の柄を寄せてくる。

いやパウリーさん濡れてるしもっと中入ってくださいよ、と言っても
「こ、これは親切であって、決してハ、ハレンチではないからな!」
と返されて全く会話のキャッチボールにならなかった。

パウリーさん大丈夫。

とても紳士なあなたをセクハラで訴えるくらいなら、うちの頭髪どピンククソ上司を先にパワハラで訴えます。

こんなか弱いレディに残業させるとかあいつの脳内に咲いてる花畑ぜんぶ枯らしてやりたいわクソが。







駅に着くと俺の傘貸してやるって聞かなくて。

最終的にパウリーさんに押し切られ、傘を貸してもらった。


いやもうどんだけ紳士?


日々非常識なワガママ上司の相手をしていたせいで、他人の優しさが辛い。心に染みる…


月曜お礼しなきゃなあ。


とりあえず早く帰ってお風呂入ろう。
こんな雨の中長時間居るもんじゃない。
風邪ひきそう。





少々駆け足で家まで向かう。




さあ、うちのアパートまであと数十メートルーーー


そう意気込んだところで、
自分の家の前に、
いつもはない黒い物体が転がっているのを見つけた。









ゴミ?ではない。



猫にしては大きい。



こんな大雨の日に道路で寝る人なんていない。




そう、例えるならまるで


人の子くらいの大きさの…
















「しッ…死体……?」












ミョウジナナシ、24歳。

社会人2年目にして、
人生で初めて第一発見者になる。






ああ、今夜も数奇な運命の雨に打たれて眠りたい




補欠選手!