君と、出会い



「あ……あのぉ…大丈夫ですかー?」




本当に死体だったらどうしよう。
本物の死体。

大きさ的にまだ子供…だと思う。
土砂降りの中、コンクリートにうつ伏せになっているため、生きてるのか死んでるのか分からない。





「もしもしー…?」



は、反応してよ〜〜〜〜!



顔が隠れ表情が見えない。
死んでたら、
わたしがこの子の第一発見者?

そう思うと、ちゃんと対応してあげないと可哀想な気がしてきた。



恐る恐る肩を指でつついてみる。



「ねえ…大丈夫?寝てんの?」




少し指先が動いた。


生きてる!


顔にかかる髪を避けて、
口元に手を当てる。

微かな吐息。
息をしている。




「…ちょっと!君!…大丈夫?わたしの声聞こえる!?」


長いまつ毛が微かに動く。

黒い物体は本当に人間で、
死体だと思ってたが生きていた。



「生きてるじゃん!まだ息してる!」


生きてた…。
死んでない…。
本当に良かった…。


人の死に目にあうとか勘弁してくれ。

人生でこんなに安堵したのは初めてかもしれない。


…でも、どうしよ!この後どうすればいいの?
救急車?救急車でいいよね!?

酒飲んでアル中で救急車呼ぶ大学生よりこーゆーときこそ救急車だよね!?


「あっ…あ、…、救急車!救急車呼ばなきゃ!」


たしか、バッグにスマホを…

とカバンを漁りだしたところで、
足首に衝撃が走る。



「ひぃっ!!!」







掴まれてる!

うつ伏せの、表情の見えない子供に、
足首を掴まれていた。










あ、私死ぬかも。






実はこの子は幽霊でこのまま私は呪怨の世界に引きずり込まれ世の中から消される運命で…




「………さ……ん、い…」




すごく小さな、聞き取りづらい
声が聞こえた。





「…へ?」





耳を澄まして聞いてみる。





「さ………………い……」






何か言ってる……。

喰われるかも。
すごく怖かったが、
ん恐る恐る口元に顔を近づけてみた。





「……む…い…っ…」


「………………」






「……さ……む…」




「え、なに?」














さむい。













その言葉を聞いた瞬間、
もう勝手に身体が動いた。


乱暴に傘をたたんで、
カバンをしっかりかかえる。



この子は生きてる。



いつからこの雨の中ぶっ倒れてるのか知らないけど、限りなく脆い生命力で、この子はいま暖を求めてる。

あたためてあげなきゃ。
躊躇してる暇はなかった。
救急車を呼ぶより家にあげたほうが早い。


「ッ死ぬな!生きろ!」


ぶっ倒れている子供の肩に腕を通し、背負う。

首筋から背中に、
濡れた髪があたって服がじんわり濡れた。



思ったよりガリガリで軽い。



「どんだけ細いんだよ…ちゃんと食べてんの?!」



子供を背負いながらアパートの階段をダッシュで登り、片手で鍵を開ける。


乱暴に靴を脱ぎ、そこら辺にカバンを投げ、
シャワールームに直行した。


もう服も泥だらけだし一緒に洗ってやるわ。
手で温度を確かめて、叫ぶように言う


「シャワーかけるよ!?熱かったら言って!」


しばらくシャワーだけで泥を流す。
排水溝に泥水が吸い込まれていく。
暖もとれ、だいぶ汚れが落ちてきた。


うつ伏せに寝てたもんね、
ほっぺに泥が付いていた。


くりっとした目元に、
バッサリと黒いまつ毛が生えている。


び、美人か!!!



水の滴る黒髪と、
透き通るような柔肌に、
一種の妖艶ささえ感じた。


いやでもめちゃくちゃグッタリしてるじゃん。


「ほら!顔についてたばっちぃ泥、全部取れたよー!お、よく見たら美人さんだね〜。よし、身体も洗うよ〜!」


シャワーをかけながら上の服を脱がしていこうとすると、こどもの身体がビクリと揺れた。


「あ、ごめん。急に触られて怖かったよね!でも君いま自分で洗えないでしょ、一回石鹸で身体洗わない?」


コクリ、と頷く。


「オッケー、ささっと洗うよ〜」



なるべく驚かせないように
ゆっくりとボロボロのシャツとズボンを脱がす。




え……?


そこには可哀想なくらい
傷だらけの小さな身体があった。


アザ?打撲?


お情け程度にテーピングされてるけど、
ところどころ血がにじんでボロボロになっている。

しかも細すぎだろちゃんとメシ食ってんのかよ。


そして君、女の子じゃなかったのね…。


こりゃー……
あの子から事情聞かなきゃな。
親御さんも心配してるだろうし、
警察にも連絡しなきゃだよね。

もう22時半は過ぎてる。
私も第一発見者として警察に事情聞かれんだろうな…。
明日なんにもなくて良かった。




「洗うと痛い?」



コクリ、とまた頷いた気がした。





お互い無言のまま彼の体をお湯だけで洗い、
髪を洗い体を温めた。



ついでに私もそのまま服を脱いで髪と身体を洗ってしまう。



本当は湯船にしたかったけど、
今日はシャワーで良かったかも。



泡を流してくれるお湯が気持ちいい。




ああ、今夜もシャワーの雨に打たれて眠りたい。




補欠選手!