ヒーローは僕を見捨てたらしい

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空は広い。
風は吹く。
夏は暑いし、冬は寒い。

どれもこれも当たり前のことである。

__では、


「嫌だァ……、もう嫌だ……。ぜんぶお前らの所為(せい)だ…!『武装探偵社』が悪いンだ!」

「……え?」

「社長は何処だ!早く出せ!!でないと、爆弾で皆吹っ飛んで死ンじゃうよ!」

「……」

すぐそこに爆弾魔が居る。
これも当たり前のこと……じゃないっ!!
そんな当たり前あってたまるか!と現実逃避をしそうになる思考を払いのける。

「あちゃー」
「怨恨だ」

物陰に隠れて爆弾魔の様子を伺う。
あの爆弾魔さん本気じゃん!?
目!目がやばいよ!
えっ、武装探偵社の人達一体あの人に何したの…。
絶対に僕がここに来た意味ないよね!?


「犯人は探偵社に恨みがあって、社長に会わせないと爆破するぞ、と。」
「ウチは色んな処から恨みを買うからねぇ。……うん、あれ高性能化爆薬(ハイエクスプロオシプ)だ。この部屋くらいは吹き飛んじゃうね」
「は、はいうえすく??…えっ!?吹き飛ぶ!?」

いやいやいや!だったら、そんな冷静に爆弾の分析してる暇ないんじゃ。
と自分は焦るが、太宰さんと国木田さんは妙に落ち着いている。
何だろう何かが妙だ。
こういう状況に慣れている、とか?
そうだとすれば、何だか恐ろしい仕事だなぁ…なんて考える。


「爆弾に何か被せて爆風を抑えるって手もあるけど……、この状況じゃなぁ。どうする?」
「え、どうって…。」

彼の問いかけの意図が分からず首を傾げる。

「会わせてあげたら?社長に」
「なっ…」
「殺そうとするに決まってるだろ!それに社長は出張だ」

国木田さんがそう云えば、となると…と太宰さんが言葉を続ける。

「…人質をどうにかしないと」

そうか、向こうには人質がいるんだった。
と、改めてこっそりと爆弾魔のいる方を見る。彼の足元には髪の長い綺麗な女の子。
どうやら縛られているらしい。
下手に動けば、彼女にまで被害が及んでしまうだろう。
最悪の事態のことなど考えたくもない……、が自分の力ではどうすることもできない。
何をすべきかや策を素早く練るような頭は持っていないし、ましてや戦い方など知りはしない。
異能力だって上手く使いこなせないし…。
嗚呼、本当に無力だ。
なんて自嘲気味に考える。

ふと顔を上げた。

「……」

目の前の太宰さんと国木田さんは何やら真剣な顔つきでじゃんけんを始めていた。
そう、じゃんけんだ。
1回目はあいこ。2回目もまた然り。そして3回目で決着がついた。
国木田さんの負けである。

いや、こんなときに何をしているのだ、と呆れながらも2人の様子を伺う。
ニヤニヤと笑う太宰さんに対し、わなわなと震える国木田さん。

「ちっ」

と一つ舌打ちをすると、爆弾魔に近づいていった。

「おい、落ち着け少年」

と国木田さんが宥めるように爆弾魔に声を掛ける。が、

「来るなァ!吹き飛ばすよ!」

と大声を上げながら、此方に爆弾のリモコンを向ける。

「ヒッ…!」

その迫力に思わず引き攣った声が出た。
国木田さんも両手を挙げている。

「知ってるぞ。アンタは国木田だ!アンタもあの嫌味な『能力』とやらを使うンだろ!?」

と爆弾魔は、爆弾のリモコンを片手に持ったまま喋り出す。
そして、

「妙な素振りをしたら皆道連れだ!」

と続けて叫ぶように云った。


「……」

文ストの最初の方はこんな話だったのだろうか?と、目の前で起きている光景に若干冷や汗を浮かべながら考える。
そうだとすれば、敦くんたちはどうやって解決したのだろう。
言葉で説得して止めさせた?
それとも、何かしらの攻撃をして止めさせた?とか?

あぁ、思い出せないな!何だかどちらも違う気がするし…。
何だろうこの煮え切らない妙な気持ちは…。
他に何かあるのだろうか。
と思考を巡らせてみるが何も浮かんでこない。

「まずいね、これは…」

ふと、隣で様子を伺っていた太宰さんが口を開いた。

「そう、ですね…」

僕はそう返し彼の言葉に頷く。

「探偵社に私怨を持つだけあって社員の顔と名前を調べてる」
「……」

…詰まりあなたは何が言いたい…?
何だかまた嫌な予感がしてきた。

「社員の私が行っても余計警戒されるだけか……。却説どうしたものか」

手を口元に持っていき何かを考えるように太宰さんはそう云った。
あれ?何だか彼の意図が読めた気がするな、と苦笑いを浮かべながら現実から逃れるように床に視線を移した。

「……」
「……」

あれ?何だかすごく視線を感じる気がする。
いやいや、真逆。
気のせいであってほしいと思いながら、嫌々視線を彼へと向ければ目が合った。

これが普通の状況ならば、こんなに綺麗に整った顔立ちの彼と目が合えば顔を赤めたりするかもしれないが、今の自分の顔は面白いくらい引き攣っているだろう。

太宰さんが、にやぁと此方に向けて意地の悪い笑みを浮かべた。

「……」

あれ?何だか僕、最近ろくな目に遭っていない気がするんだけど…!?


(さ、敦くん!)
(エェ…!?)

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