ねえ、僕は何色に見える?

「や、やややや、やめなさーい!」

あれ?僕は一体何をやっているのだろう…?

「お、親御さんが泣いてるよ!」

そこら辺にあった新聞紙を丸めて爆弾魔に向かってそう云う。
足はよく云う"生まれたての子鹿"のようにぶるぶると震えているし、冷や汗は止まらない。

「な、何だ!?アンタっ!」

そんな僕を睨みながら爆弾魔は爆弾のリモコンを此方に向けて叫ぶ。

ひいい!!怖い、怖いよ!だから僕には無理なんだって!!
と、心の中で叫びながら太宰さんが云っていたことを思い出した。



◇◆◇



「社員が行けば犯人を刺激する。となれば、無関係で面の割れてない君が行くしかない」

はい?"僕が行くしかない"って何!?いや確かに面は割れていないだろうけど…。

でも…、

「むっ無理ですよ、そんなの!!第一どうやって…」
「犯人の気を逸らせてくれれば、後は我々がやるよ」
「……」

いや言葉では簡単に云えるけれど、気を逸らせってなんて無茶な…。
と冷や汗だらだらで太宰さんを見つめる。すると、何故か余裕そうな笑みを浮かべている太宰さんが口を開いた。

「そうだな。落伍者らくごしゃの演技でもして、気を引いては如何(いかが)かな?」
「なっ…、ら、落伍者!?」

いや確かに僕にぴったりかもしれないけれど…。
…でも、無理だよ!!

「信用し給え。この程度の揉め事、武装探偵社にとっては朝飯前だよ」

彼はそう言ってニコリと綺麗に笑った。

「……。」

一つ良いですか、太宰さん。
こんな出来事が朝飯前なら、お前がやれよぉ!!
と、心のなかで一生懸命叫んだ。
そう、"心のなかで"である。



◇◆◇



「ぼぼっ僕は、さ、騒ぎを聞きつけたっ、一般市民ですっ!!」

いいのか、これで!?
いいのかこれでぇぇ!!?
と、焦りながらも爆弾魔に向かって云う。

「生きてれば好いことあるよっ!多分!」

あ、思わず"多分"と言ってしまった。
ま、まあいいか…うん。


「誰だか知らないが無責任に云うな!みんな死ねば良いンだ!」

爆弾魔はそう叫ぶ。
こういう時ってなんて言い返せばっ!

「え、えっと…、僕なんか孤児で家族も友達も居ない!この前、孤児院さえ追い出されて行く宛も伝手もない!」
「え…いや、それは」

あれ、僕、何云ってんだ?
なんでこんな話を爆弾魔相手に…。
なんて思いながらも続ける。

「害獣に変身しちゃうらしくて、軍警とかにバレたら多分縛り首だし、特技も長所も特にはないし、誰が見ても社会のゴミだけど…、ヤケにならずに生きてるんだ!だ、だだだから!」

えっと、何て続けようか…。
あー!!もう自分が何を言っているのか訳が分からなくなってきたぞ!
と、とにかく…!爆弾を捨ててもらって人質を解放してもらってから…。
って足りない脳で考えても分からないや!もう、こうなったらっ


「…その、爆弾捨てて、……一緒に仕事探そう」
「え、いや!ボクは別にそういうのでは…!」

あ、混乱しすぎて言葉を間違った…。
一緒に仕事探そうってなんだよ!
一緒に警察に自首しよう、とかそういうのを云わないといけなかったんじゃっ…。

などと、今更ながらにそう考えていると、

「手帳の頁を消費つかうからムダ撃ちは厭(いや)なんだがな………!」

国木田さんがそう云いながら、彼の"理想"と表紙に大きく書かれた手帳を取り出した。
そして、

「"独歩吟客"」

手帳に何やら書きながらそう云った。
そして手帳のとある頁をビリッと破った。

「手帳の頁を鉄線銃(ワイヤーガン)に変える」

国木田さんがそう呟けば、何処からともなく銃が出てくる。
も、若しかしてこれが国木田さんの能力…?
す、凄い!
爆弾魔へと銃口を向けて、引き金を引けば鉄線が出てきて爆弾魔の方に物凄いスピードで近づいていく。

バシッ

それが爆弾魔の持っていたリモコンに当たり、リモコンを弾いた。
その弾かれたリモコンを目で追っていれば、

「確保っ!」

と、太宰さんの声が聞こえる。
その声と同時に国木田さんが爆弾魔を取り押さえた。

「す、凄い…」
「一丁あがり〜」

という太宰さんの呑気な声が聞こえる。

太宰さんの方を見れば、彼は此方に微笑みグッと拳を握った。
お、終わったんだ…。よかった!

それにしてもよく出来た"芝居"だったな…。
と、肩に入っていた力を抜きながら考える。
ん?あれ…、芝居?
ふと頭にそんな単語が浮かぶ。
あー、そうだ。確かこれって……。そう何かを考えようとしたとき、

トンッ

"何か"に背中を押されて、体が前に倒れた。

「え…?…うぐっ!?」

そして思いっきり顔を床にぶつける。

ピッ

それと同時に耳元から機械音が聴こえてくる。
あれ?手の下に何かある。
それを恐る恐る確認すれば、そこにあったのは爆弾のリモコン。
そのリモコンのスイッチの上にある僕の指。

「…あ」
「あ」

若しかしてやらかしてしまったか…。
慌てて爆弾の方を見れば、5秒と表示されている。

「うわぁぁああ!」

さ、作動させてしまった!?
どどどどうしよう…。
慌てて後ろを振り返る。
そこには突然のことで唖然としている探偵社の方々。
あまりにも突然すぎて逃げるのも忘れているようだ。
このままだとみんなを巻き込んでしまう。

『爆弾に何か被せて爆風を抑えるって手もあるけど……』

と云っていた太宰さんの言葉を思い出す。
そうだ!何か被せるものっ!
と、サッと周りを見回すが何もない。
他には何かないか!?
"他には"!

「…っ」

そうだ!こうなったら!

「…なっ」

誰かの驚く声が聞こえる。
それもそうだ。
だって今僕は、"爆弾に覆いかぶさってる"んだから。
ピッ、ピッという機械音が聞こえる。
あーあ、何やってんだろう、僕。

まあでも、何も無い僕だけどさ、こういう時には少しくらい役に立つよね。

「莫迦(ばか)!」

という声が聞こえる。あーこの声は太宰さんだ。
確かに僕は莫迦かもしれないな。

「……ふふっ」

何だか怖すぎて笑えてきた。
たった数秒がやけに長く感じられ、色んなことを考える。
今の僕はみんなの目にどんな風に映っているのだろう?とか、お茶漬けもっと食べたかった、とか。

ピッ

また機械音が鳴る。
もう爆発するなぁ…。なんて呑気に考える。
そして苦笑を漏らし目を強く瞑った。

「…っ!!」


(何も無い僕が)
(誰かの役に立ちたいとおもった)

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