外出しようとしていた麗依は巻こうとしていたマフラーがどこにも無いことに気づいた。寒がりな麗依は肌寒い日はほぼ毎日着けるためどこかに仕舞うことはない。玄関やクローゼット、寝室など思い当たる部屋を一度見て回ったがどこにも見当たらない。
こういうときは探さなくなったあたりで見つかるだろう、と結論づけて家を出た。


――2週間経っても見つかりはしなかった。





「…………」

ITOKANの一角で通称ゲンドウポーズを取っているのは山王紅一点の麗依。大抵のことにはケロッとしてるか笑って誤魔化す彼女が深刻そうな顔をしているのは何があったのかともちろん気になる。

「麗依さんどうしたんだろうな…?」
「すげぇ深刻そうな顔してる…」
「今まで見たことない顔やな…は!もしや…」
「どうしたんすか?」
「…………日向にフr「「ないっすね」」最後まで言わせんかい!」

日向のベクトルに全く気づかなかったダンとは違い、気づいていたチハルとテッツはないないとダンの考えを即切り捨てた。口に出すことは無いが然り気無い行動が全てを物語っていて、あの二人が別れることは無いだろうとチハルとテッツは考えている。

「じゃあなんや…あいつがあんなんになるなんて日向以外いないやろ」
「いや、コブラさんとか……?」
「ああ!…でもコブラさん普通に居るよな?」
「だよなあ…」

定位置のソファーに腰かけるコブラは雑誌に目を向けながら時折麗依を見ていた。心配はしているようだがコブラに心配をかけまいと嘘をつく可能性があるため声はかけずに見守るだけにつとめいた。
コブラに関係することならまずこのITOKANでこんな顔は絶対にしないな、と結論づけじゃあ何でだ?とまた頭を悩ます。

「麗依さんどうかしたんですか?」
「仁花ちゃん、ちょっとね……」

心配した仁花が麗依に声をかけた。苦笑いで応えた麗依は悩みあるなら聞きますよ?という仁花の言葉に少し迷った結果、口を開いた。三人は静かに耳を傾け、コブラは雑誌から目をはなした。

「実はさ、マフラーが見つかんなくって…」
「マフラーですか?」
「うん、ちょっと前まですごい寒かったでしょ?そのとき出してしばらく着けてたんだけど…2週間くらい前から行方不明でさ…」
「ちょっと前…あ!あの赤いマフラーですか?」

ちょっと前、赤いマフラー、三人は記憶を遡った。たしかにちょっと前まではほぼ赤いマフラーをつけていた記憶がある。最近は寒さが和らいだため気にはならなかったが、なくなってたのか。とそこまで考えて、赤いマフラー…?とコブラを見た。

「………俺がやったやつか」
「うっ……その通りです…ごめんね」

効果音をつけると、ズーンというがピッタリなほど落ち込んだ麗依に納得した。コブラからのプレゼントならここまで落ち込むのも無理はない。

「ITOKANから家への帰り道にも無いし、家にもなくて…そのうち見つかるかと思えば全く見つからないし…」
「俺たちも探してみますよ!誰か拾ってるかもしれませんし!」
「チハル…」
「そうですよ!俺も声かけてみますね!」
「テッツ…」

目に涙を浮かべて麗依はテッツとチハルを抱き締めた。微笑ましいものを見る目で見ていたナオミはふと麗依の手元を見た。

「……そういえば最近手袋もしてねぇな」
「それがね手袋もないんだよねえ…去年買ったナオちゃんとお揃いのやつ」
「…無くて大丈夫?あんた寒いの苦手でしょ」
「これくらいなら耐えられる」
「無理はしないように」
「うん!」

にしてもどこにやったんだろ、とため息をつく麗依にダンは無くしすぎやろと笑ったがすぐに麗依に腹パンを決められて沈むことになった。

「ぐぉっ」
「私だって好きで無くしてるわけじゃないっての」
「今のはダンさんが悪いっすよ」
「あ、麗依さん私とナオミさんと三人でお揃い買いに行きませんか?」
「いいね!行こ行こ!ナオちゃん」


女性三人の和やで華のある会話の傍ら、痛みに呻くダンに呆れた目を向けていたテッツだったがふとある疑問が頭を過った。

―あれ?ダンさんならともかく、麗依さんってそんなにもの無くすタイプだったけ?

「テッツ?どうした?」
「あ、いや、何でもない」