朝ご飯を作ろうとしたら冷蔵庫の中にはほぼ何も無く、昨日買おうと思っていたのに忘れたことに気づいた。パン1つもない状況に絶望すること約10分。

「よし、買いに行こう」

24時間営業のコンビニに向かおうとテキトーに服をきた麗依は財布を持ちドアをあけた。すると何か音がして見てみると、ドアのところに茶色の紙袋が置いてあった。怪しい紙袋に不審な目を向けつつそろりと中を見る。

「……ぬいぐるみだ」

中に入っていたのは茶色のテディベア。つぶらな瞳がかわいいテディベアに目を輝かせて写真を1つ。撮った写真を山王グループラインに載せ、誰がくれたの?と一言。早朝なためすぐに返事はこないだろうとスマホをしまって紙袋は家に置いてコンビニに向かった。






ピコンピコンと鳴る通知に食パンを食べながらスマホを見る。誰もテディベアに心当たりは無いようで逆にどうしたのかと聞かれた。正直に答え、他に思い当たる人物を思い浮かべた。が、真っ先に浮かんだ人物とテディベアが結び付かず唸る。

「家を知ってるのって、あとは日向と達磨の連中……でも、商店街の誰か…?いやテディベアくれそうな人思い浮かばないんだけど」

考えても誰も浮かばなかったため、どこかの優しい人がくれたんだろうと諦めた。




――――――





「麗依?」
「え、なにめっちゃ怖いんだけど……?」

ITOKANに来た麗依を迎えたのはそれはもう素晴らしく満面の笑みをたずさえたノボルだった。その笑みに思わず後ずさる麗依だったが無情にも後ろの扉は閉まり、扉の前には険しい顔のダンが立ち塞がった。

「みんなどうしたの…雰囲気怖いんだけど…」
「麗依ここに座って」
「は、はい…」

大人しく指定された場所に座ると、目の前にノボルとコブラが座り、両隣はテッツとチハルに挟まれた。逃げられない布陣に戸惑う麗依、ナオミが出してくれたカフェオレだけが心の安寧を保たせてくれていた。

「えっと、これはどういう…」
「聞きたいことがいくつかあるから答えてくれるかな」

質問のはずなのに疑問系じゃなくて確定系で言われた麗依はただ頷くしかなかった。

「まず1つ目、マフラー無くなったって言ってたよね?他に無くなったものはある?」
「無くなったもの?」

無くなったもの、とここ最近の記憶を思い出す麗依を見つめる4対の瞳は険しい。カウンターにいるナオミと仁花は心配そうに見つめ、扉の前にから移動してカウンター席に座ったダンとオムライスを食べながらも麗依を見るヤマトの顔はいつになく険しかった。

「たしか…お気に入りのカーディガン、シャツが数枚。あとは万年筆とか…あ!靴もなくなってたんだった」
「そんなにか……それは見つかった?」
「全く。いくら整理整頓が苦手でもここまで見つからないと自分でもヤバいなって思って整理してるとこ」
「じゃあ2つ目、差出人不明の荷物届いてない?」
「テディベアとかぬいぐるみが数個とマフラーと靴かな」
「……最後に手紙とか非通知からの電話来てない?」
「手紙は来てないけど、電話は何回か来てるかな。まあ非通知は出ないことにしてるから誰かはわからないけどね」

質問に答えていくにつれてだんだんとITOKANの空気は重くなり、最後のしつもんが終わると全員の顔が険しくなった。いまいち状況を理解できていない麗依はキョロキョロと周りを見渡す。

「私、なんかまずいこと言った…?」
「なんで気づかないんっすかぁぁぁ…っ!」
「うわっ」
「気づきましょうよっ!」
「えっ?なに?何の話?あとチハルちゃん苦しい」

思いっきりチハルに抱きつかれた麗依は苦しさに呻くが誰も助けてはくれず、テッツに責められ麗依は何がなんだかさっぱり理解できなかった。

「ストーカー」
「は?ストーカー?ストーカーがどうしたの盾ちゃん」
「お前がストーカーされてる」
「いやいやいやまさかぁ………ははは……まじで」

ないないと笑う麗依だったが周りの雰囲気にすぐに笑いは治まり、顔がひきつった。よくよく考えてみると、いくら整理整頓が苦手でもここまで見つからないことはおかしい。特にコブラのマフラーを無くすなんてことはありえない。そのうえ差出人不明の荷物。仕舞ったままで使ってないがようやく事態の重大さが理解できたのか、冷や汗が流れる。

「う、うそでしょ…」
「どう考えてもおかしいかったじゃないっすか?!」
「なんで差出人不明の荷物とか受け取っちゃうんですか?!」
「いやまだ出してないし、使ってないから…」
「そんな気持ち悪いもんとっとと捨てんかいっ!」
「なんで気づかないんだか…」
「ナオちゃんしみじみ言わないで傷つく」
「麗依さん自分のことに無頓着な所ありますから…」
「もっと自分大事にしてくださいよ!」

周りからの言葉に自分自身に対する無頓着さに危機感を覚えた麗依は少し反省した。あと、自分の鈍感さに泣きたくなった。

「にしてもよ、なんでそのストーカーは麗依の家入れたんだ?」
「ピッキングとかじゃないですか?」
「………は!そうか!侵入されてたんだ!」
「気づくのが遅い」
「普通に帰る気だったわ…もう帰れない、ナオちゃん泊めて」

青ざめてナオミに助けを求める麗依にノボルはそれなら大丈夫、と一言。

「安心していいよ、避難先ならもう決まってるから」
「え?」
「安全なところだ、安心しろ」
「盾ちゃんとノボルがそう言うなら……」





――――この後、麗依はろくに避難先を聞かずに了承したことを後悔することになる。