恐れないで、愛しい人



光なんて降らない。これはこの世界の理なの。揺らぐことのない真理なの。
目の前に積み上がった塵の山を見ていたら、耳元で子供の声がした。たしかに、遠くで揺れる一縷の光は、今にも暗闇に飲まれて消え失せてしまいそうだった。とても、わたしの上に降り注ぐだなんてことはできそうにない。
立ちすくんで頭を垂れる友人を、横目で見た。白い肌に灰色の影がかかっている。薄く開いた唇から、呪文のような呻き声がひっきりなしに漏れ出ている。友人の足は小刻みに震え、かわいそうなほど地面に張り付いている。
光はないのかもしれない。
おもむろに、わたしは友人の手のひらを握りしめた。冷たい手のひらだ。友人は虚ろな瞳をわたしに向けた。か細い息を吐くその唇はひどく青い。
どうだろうね。
子供の声が囁いた。いくぶんか楽しげな気配を含んだ小さな声。幼い声。
光はないのかもしれない。
それでも構わないけど。



2017/04/29
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