そんなの嘘だと駒鳥は言った



最後に残っていた唯一の証明が、私の手の中から滑り落ちた。
あなたがいたという証拠。あなたのことを覚えているという証明。証。痕跡。あなたの軌跡。
今でもあなたに囚われているのだと、悲劇のヒロインぶりたい私の独りよがり。だけど、それでもまだ、私のものであって欲しかった記憶。馬鹿げているだなんてことは分かり切っている。
それでもやはり、まだぬるま湯から抜け出せていないのはわたし。あなたはもう、このぬるま湯にはいない。わたしの世界にはいない。
でも、もう終わり。
誰かが囁いた。
はっきりと、全てが終わる音がした。



2017/07/03
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