一緒に元に戻りたい



全てを放り出したくなるような暖かさに包まれて、赤子のように体を横たえていた。締め切った窓いっぱいに鉛色の空が揺らめいている。何も眠りを妨げるものはない。ただ雨が屋根に当たる穏やかな唱歌と、遠くを行く電車の音だけが届いてくる。
窓から落ちる暗い光が、私の頬に差しては溶ける。何にも干渉されずに、ただただ安心によって造られたゆりかごで眠りにつきたい。ただ純粋な安堵を抱きしめていたい。
全身の力が溶けてどこかへ散り行こうとしている。コーヒーにミルクを落として溶かすように、それは離散しようとしている。決して取り返しのつかない何かが、私たちの手から滑り落ちて行こうとしている。
止まない雨がだめ押しのように窓を打った。私は目を閉じる。もはや手遅れなのであった。



2017/3/23
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