不安やった。一緒に入った女の子もみんなおらんくて、周りは全員男の子。
ただでさえ、彼らのファンの子には嫌われる存在になることも分かってた。
15歳のまだまだ子供の私には全てが不安やった。



「レッスン行きたない」
「なに言うてんのもう、頑張りいや
「女の子あたしだけやもん、友達できひん」
「もう2ヶ月やで?同い年の子とかおるやろ?」
「知らんもん喋ったことないもん」
「まずは喋っておいで、な?」



お母さんは、中途半端を嫌う人やったからレッスンも毎週ちゃんと行かされた。
人見知りも激しい私はレッスンに行っても話す人なんかおらんかったし、オーディションが一緒やったとかもないから、誰が同期かとかも分からん。



「トイレすらあれへん」



逃げ場所もない、休憩時間になったら廊下にある長椅子に丸まって座るくらいしかすることは無かった。



「#名前#ちゃん?」



上から降ってくる男の子の声。
基本、ここでは悪口か興味津々の質問しか言われない。たまに、女の子に飢えてるようなちょっとチャラい男の子もいるけど、それはそれで怖かった。
少し怯えながら顔を上げると、3人くらいの男の子が私のことを見下ろしてた。



「ちゃんと顔見たん初めてや〜」
「なんでこんなとこ来たん?」
「やっぱイケメンに囲まれたいとかあったん?」
「これからも続けてくん?」



怒涛のように降りかかってくる質問は多分悪意も何もないただの質問なんだろうけど、この頃の私にはキツかった。



「……いや、」
「全然喋らんやん」
「女やから特別とでも思ってるんちゃう?」
「なんやねん、せっかく声かけたのに」
「先生からも贔屓されとるからやろ」
「可愛いだけで受かってイケメンに囲まれて良かったやん、ほなね」



何も反論も意見もすることができないまま男の子たちは去って行ってしまった。
また顔を下に向けた。出来るだけ存在を隠すように。
ここにいる人達によくは思われてない。
多分後半の言葉はどれも本音なんだろう。
涙は出やんかった。
もう、慣れてしまった。


「ほんまやねんて!」
「信じられへんわそんなん」
「絶体嘘やんけ!」
「なんで信じられへん、ってお?」
「なんやねん」
「いや、これ、泣いとるから」
「やめとけって、」
「大丈夫か?」



遠くから聞こえてくる会話が近づいて来て、私の前で止まったと思ったら、すごい勢いで頭を掴まれた。
驚いて急いで顔を上げたら、また3人今度は違う人たちが立ってた。
てか、この人達知ってる。めっちゃ先輩や。



「あれ?泣いとらへんわ」
「なんやねんもう〜早よ手離せや」
「ほんまそういうとこあるからな」
「なんや、気持ち悪いんか?こんなとこで」



頭から手を離してくれた、村上くん?多分そう、村上くんはどうやら私が気分が悪いと思ったみたい。
とりあえずなんか言わな。



「あ、ごめんなさい大丈夫です」



どうせもう休憩時間も終わりやろうし、私はそこから立ち上がって戻ろうとした。したけど、戻られへんかった。
村上くんに手を掴まれてたから。



「お前あれか!#名前#ちゃんか!」
「ちょ、ホンマにヒナもうええやん」
「も〜、分かった分かった、ほな頑張れな!」



そういうと手を離して、颯爽と去って行った。
なに話しかけてんねんとかぎゃあぎゃあ声が聞こえて来たけど、村上くん良い人やったなあ。



「頑張れ、か」



この事務所に入って初めて言われた言葉。
分からないけどすごく嬉しくて、もう少し、もう少しだけ頑張ってみようと思った。





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