引け!くじびき!


「今すぐ脱ぎたい……。」


「せめて組み合わせ決まるまではこのままじゃないと……。」


せっかく隅っこでしゃがんでたというのに、午後の部が開始されて中央まで引きずられた。こんな恥ずかしい格好、どうしてさせられているんだ……。

八百万さんの言い分曰く上鳴くんと峰田くんの差し金らしいので、あとで水中ヘルメットでもプレゼントしてやろうか。

一位のチームからくじを引きに行く。八百万さんは普段の戦闘服からして、露出には慣れているらしく、堂々と階段を登ってくじを引いている。

くじ引きなんてそう時間がかかるものでもないので、すぐに二位通過の私たちが呼ばれる。勝己も切島くんも瀬呂くんも人ごみから現れた。

勝己はこちらを見ることなく数段の階段を登ってさっさとくじを引いてしまった。


「苗字さん先引いていいぜ。後ろなら俺らが隠しとくからさ。」


瀬呂くんがぐっと親指を立てて、人ごみからの視線を遮るように切島くんと一緒になって壁になってくれた。

視線が完全になくなったわけではないものの、大分気にならなくなった。段を登って箱からくじを引いてしまう。

数字の書かれたそれを持って段を降りれば、次いで瀬呂くん、切島くんもくじを引いた。勝己はそっぽ向いたままだったけど、三位、四位のチームが順にくじを引く間も二人は壁になり続けてくれた。


「組はこうなりました!」


モニターにトーナメント表が現れて苗字の文字を探す。初戦の相手は青山くんだ。勝己も同じブロックにいるから、勝ち進んでいけば準決勝で当たってしまう。


「げ、俺初戦から轟とかよ。」


「俺はB組の……個性だだ被りのやつじゃねぇか……!!」


各々対戦相手を見てやる気を高めている。青山くんは直線的なビームしか今のところ見たことがない。それならば、多分勝てる。それに1秒以上の攻撃はしてこないことはわかっているし、さっさと気絶してもらって勝ち進みたいところだ。

それよりは2回戦が怖い。八百万さんが上がってきても、常闇くんが上がってきても難しそうだ。

それぞれが対策やら作戦やらを考えているというのに、勝己は相手が誰かすらわかっていないようだ。


「お茶子だよ。麗日お茶子。」


「あの丸顔か。」


疑問符を浮かべていそうな勝己にこっそり教えてあげると、合点がいったのかすたすたとどこかへ言ってしまった。昼が終わってからまだ一度も合わない視線に首を傾げつつ、私も着替えてしまおうと小走りでゲートに向かったら服が後ろに引っ張られた。

恐る恐る振り返ったら、チアの服だけが浮いている。すなわち、葉隠さんだ。


「苗字さんも一緒に楽しも!」


その表情は見えないけれども、声色からしてきっと満面の笑みなんだと思う。結局それを断りきれず、チア服を脱ぐことは出来なかった。

葉隠さんと、芦戸さん、お茶子に梅雨ちゃんは目一杯に楽しんでいる。八百万さんは初戦の相手、常闇くん対策でも考えているのだろうか。ほとんど微動だにしていない。

私は耳郎さんと一緒にしゃがみこんで、レクリエーションを眺めていた。こっそり勝己を探してみたけど、どうやら会場の外に行ってしまったみたいで、どこにも見当たらなかった。

一度も目が合わなかったし、チア服が死ぬほど似合ってなかったんだろう。自覚だってあるくらいだから、わかっていたけどやっぱりちょっとだけショックだった。

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