一回戦最終戦


「名前ちゃんお疲れ様。呼吸を奪うスタイル、さすがだわ。」


応援席へと戻れば、梅雨ちゃんが声をかけてくれた。耳郎さんの隣も空いていたことだし、座らせてもらってステージを眺める。切島くんとB組の鉄哲くんという人が真正面から殴り合っている。

個性だだ被りというだけあって、とる戦法まで一緒だとは。二人は案外気が合うのかもしれない。


「常闇くんと八百万さんの試合、どんなだった?」


「瞬殺だったよね。」


「ええ、百ちゃんも盾を作ったみたいだったけど、攻撃をその盾に集中させられちゃって、そのまま押し出されちゃったわ。」


「速攻、やっぱり来るよね……。」


なりふりかまわず呼吸を奪ってしまうのがやはり一番いいだろう。個性の黒影の対処が難点だ。

黒影も意思を持っているのが難しい。なにか弱点はないのだろうか。


『個性ダダ被り組!鉄哲VS切島、真っ向勝負の殴り合い!制したのは――』


「両者ダウン!引き分け!!」


放送が入って再度ステージを見れば、二人とも仰向けに倒れている。個性もダダ被りなら、戦法も、実力もダダ被りなんて、やっぱり二人は似たもの同士だ。

二人が運ばれていった直後、ステージに現れたのはお茶子と勝己。一度近付かなければ個性を使えないお茶子と、近距離から中距離までの攻撃を得意とする勝己は、正直相性が悪い。

とはいえ、爆発するのは手だ。お茶子に爆撃を与えるには手を突き出す必要がある。どうにかして触れてさえしまえば、勝己に勝ち目はないだろう。


『一回戦最後の組だな……中学からちょっとした有名人!堅気の顔じゃねぇ、ヒーロー科爆豪勝己!!対…・・・俺こっち応援したい!ヒーロー科麗日お茶子!』


マイク先生の紹介に思わず噴出してしまった。あとでいじってやろう。

持久戦になったら、お茶子の個性じゃきつい。多分、速攻を仕掛けるだろう。どっちを応援すべきか、わからない。

スタートの声とともに、お茶子は走り出した。前の席で出久が解説してる。

出久の解説と予想通り、勝己は思い切りお茶子を爆破した。真正面から爆破を受けたお茶子がどうなってるのか、煙がひどくてわからない。

見えるのは勝己だけで、目の前へ攻撃したかと思えば、背後から体操服を脱いだお茶子が現れた。どうやら、脱いだ体操服を囮にしたらしい。

お茶子だから出来る、いい作戦だ。

でも、姿を出したのは間違いだ。勝己に向かって伸ばされた腕は、勝己の攻撃によって防がれる。勝己を攻略するには、いかに虚をつけるか。基本はそれに尽きる。

吹き飛ばされたお茶子も、負けじと突っ込み続ける。勝己の攻撃で抉れたコンクリートの破片が宙に浮いている。勝己の攻撃の度に増えていくそれこそが、お茶子の虚をついた作戦なのかもしれない。

少しだけ、その光景があの日と重なった。

無意識に自分の体を抱きしめて落ち着かせる。大丈夫、大丈夫。

度重なる勝己の容赦ない攻撃に、観客からブーイングが飛んでくる。それは次第に大きくなっていって勝己をヒールに仕立て上げていく。

違う、勝己はヒールじゃない。ヒーローだ。あの日、私を救ってくれた勝己は誰よりもヒーローで、誰よりもかっこよかったのだ。


「勝己!!負けるな!!」


無意識だった。座席から立ち上がって、ブーイングに混ざらないよう、大声を張り上げる。クラスメイトですら、目を塞ぎたくなるこの状況なのに、声をあげて勝己を応援したものだから、周囲の視線が突き刺さる。


『今遊んでるっつったのプロか?何年目だ?シラフで言ってんならもう見る意味ねぇから帰れ。』


もう一度声を張り上げようとしたとき、相澤先生の声が響き渡った。

相澤先生の言葉が勝己を認めてくれているようで、嬉しかった。思わず瞳に浮かんだ涙を、個性で蒸発させて席に腰を落とす。

勝己は、真剣にお茶子と向き合ってるんだ。

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