青山vs苗字


予想通り、飯田くんの試合は発目さんが満足するまで実況をして、飯田くんが振り回されて終わった。

ふう、と息を吐き出して控え室を後にする。さっき乾かした水のおかげで会場の空気は水蒸気をたっぷり含んでいる。

青山くんには悪いが、私にとって最高の条件すぎる。


『一回戦の後半戦行くぞ!!へそから出るのはキラメキビーム!?青山優雅!対、ドライもウェットもお手の物ウォーターガール!苗字名前!』


マイク先生の紹介の直後、スタートの合図で試合が開始される。すぐさま水蒸気を一箇所へと集めていく。


「こういうのは先手必勝だよね☆」


おへそから放たれたビームは一直線に私へと向かってくる。けれど、そんな直線的な攻撃ではどう向かってくるのかわかりやすすぎる。直線上からひょいと避ければ、私の隣をビームは通過していく。

そして、すぐにビームは空気に霧散していった。


「1秒以上射出出来ないのが難点だよね、それ!」


集めきった水蒸気で青山くんの目元までのヘルメットを作り出した。呼吸は出来るけど、咄嗟に目を開くなんて出来ないはず。

じっと青山くんを視線から外さないように間合いを詰めて背後に回る。途中、焦ったのか闇雲に放つビームが体操服を掠めていった。


「さっさと場外よろしく!」


コンクリートはあまり滑る素材ではないが、念のため水を撒いてから思い切り回し蹴りを食らわせる。

さすがに一発で出て行くほど強力な蹴りは出来なくて、もう一撃いれる必要があったのだが青山くんの目はもう開かれている。さすがに純水だと慣れるのも早い。


「お肌が潤いそうだね、この個性!」


こちらに狙いを定めて再び放たれたビームを間一髪で避ければ、なりふり構っていられないと目元までだった水ヘルメットを顔全体に引き伸ばす。

呼吸も奪われてヘルメットをガボガボと空気の泡が通っていく。人としての本能なのか、ヘルメットを脱ごうと手を持っていく青山くんだったが、掴む質量を持たない水はすり抜けて頬を触るだけだった。

その隙にもう一度回し蹴りをおみまいしてやれば、青山くんは簡単に場外へと押し出されてしまった。


「飲んじゃっても大丈夫な安心安全な成分にはしたけど、苦しくさせてごめんね!」


「青山くん場外!!苗字さん二回戦進出!!」


ミッドナイト先生の言葉と同時に水中ヘルメットを水蒸気へと戻して青山くんを解放する。

タンクの水も一切使っていないし、順調な滑り出しだ。控え室へと戻る道中、八百万さんとすれ違った。神妙な面持ちをしていたから、声をかけることは出来なかったけど、どっちが勝ち進むんだろうか。

控え室1の扉を開ければ、勝己が座っていた。あと2戦終われば試合だったっけ。


「勝ったよ、勝己。」


「そーかよ。」


「次もお互い勝ち進んだら、戦うことになるけど、負けないから。」


真剣勝負をやったことはない。けど、小さいときから一緒だった私たちは、互いに互いの個性を知り尽くしている。相性で言えば私の方が有利だけど、勝己相手ではそう簡単に勝てる気もしない。


「俺は全部ぶっ倒して1位になる。それが名前だろうとぶっ倒すだけだ。」


静かに告げられる言葉は、勝己の真剣さを表しているようで、気合が入る。勝己とお茶子の試合をちゃんと見るために休憩もほとんど取らずに、控え室を後にして応援席へと戻った。

途中放送で常闇くんが勝ったことを知って、時間もわずかで終了した試合を見れなかったことに後悔した。

八百万さん相手にこれだけ短時間で勝利を収められる強力な個性だ。私も油断なんて、していられない。

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