閉会式


「それではこれより!!表彰式に移ります!」


顔を洗ってスタンドに戻れば、ちょうど表彰式の召集がかかっていて急いでグラウンドに向かった。

洗ったとはいえ、真っ赤に充血した目は隠しきれなかったのか、梅雨ちゃんに心配をかけてしまったのでどうにかこうにかはぐらかした。

表彰台の上には常闇くん、轟くん、そして暴れに暴れている爆豪くん。厳重に拘束されて一番高いところにいる彼は様々な注目を集めている。

その横で轟くんは、なんだか思いつめたような、考え込んでいるような、そんな表情だ。

緑谷くんとのことか、エンデヴァーとのことか、それとも私の言葉のことか。轟くんが一体なにを考えているのか、少しでもわかってあげられないかとただひたすらに見つめていた。


「メダル授与よ!!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」


「私がメダルを持って来「我らがヒーローオールマイトォ!!」


打ち合わせはなかったのだろうか。ミッドナイト先生言葉が終わったと思い込んでしまったのか、オールマイト先生の登場だったのにイマイチ締まらない。

微妙な空気の流れる中、なんとか持ち直したオールマイト先生が表彰台へと向かった。


「常闇少年おめでとう!強いな君は!ただ!相性差を覆すには“個性”に頼りっきりじゃダメだ。もっと地力を鍛えれば、取れる択が増すだろう。」


個性に頼りきらない戦い方。私にも刺さる言葉だ。個性の強化はもちろん、地力も鍛えていかなければ。


「轟少年。おめでとう。決勝で左側を収めてしまったのにはワケがあるのかな。」


私の聞きたかったこと。きっと、緑谷くんも聞きたかったこと。みんなが、気になっていたこと。


「緑谷戦でキッカケをもらって……わからなくなってしまいました。あなたが奴を気にかけるのも、少しわかった気がします。俺もあなたのようなヒーローになりたかった。ただ……俺だけが吹っ切れてそれで終わりじゃ、駄目だと思った。清算しなきゃならないモノがまだある。それに、知らなきゃいけないことも、まだ。」


静かに、轟くんの言葉に耳を傾ける。やっぱり、迷っていた。大事に至らなくて本当によかったと、私だけが思っている。

視線を落として、地面を穴が開くほど見つめた。そして、瞼を落とした。真っ暗な視界のなか思い浮かぶのは、たった一人涙を流したお母さんの姿だった。


「……顔が以前と全然違う。深くは聞くまいよ。今の君ならきっと清算できる。」


少しずつ遠くなっていくお母さんの姿を轟くんで上書きされるようにすっとオールマイト先生の言葉が入ってきた。

私のお母さんのこと、轟くんはたぶん聞いてしまったんだろう。知らなきゃいけないことは、そのことなんだと直感が告げている。


「さて、爆豪少年!!っと、こりゃあんまりだ……。複線回収見事だったな。」


「オールマイトォ、こんな1番……何の価値もねぇんだよ。世間が認めても俺が認めてなきゃゴミなんだよ!!



感慨にふけっていた私を引き戻したのは、地を這うようなおどろおどろしい爆豪くんの声だった。顔をあげて表彰台を見れば、キレてるを通り越したような表情の爆豪くんがオールマイト先生とにらみ合っている。


「うむ!相対評価に晒され続けるこの世界で、不変の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない。受け取っとけよ!“傷”として!忘れぬよう!」


「要らねっつってんだろが!!」


差し出されるメダルを断固として受け取るつもりがないのか、ものすごい顔のまま、手足も動かせないのに全力で抵抗している。

しかし、そこはさすがのオールマイト先生。爆豪くんの口にメダルの紐を突っ込んで強引に渡している。


「さァ!!今回は彼らだった!!しかし皆さん!この場の誰にもここに立つ可能性はあった!!ご覧いただいた通りだ!競い!高め合い!さらに先へと登っていくその姿!!次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!!てな感じで最後に一言!」


オールマイト先生の言葉が身にしみる。私だってあそこに立てた。立つ可能性はあった。もう二度とお母さんのような人を出すわけにはいかない。そのために、もっともっと頑張らなければ。


「皆さんご唱和下さい!!せーの!!」


「プルス「おつかれさまでした!!」……えっ!?」

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