二回戦開始
「おーう、何か大変だったな悪人面!」
「組み合わせの妙とはいえ、とんでもないヒールっぷりだったわ爆豪ちゃん。」
「堅気の顔じゃない勝己おかえり!」
「うぅるっせえんだよ、黙れ!!」
戻ってきた勝己にみんなが声をかけている。機嫌の悪い勝己は空いていた私の隣の席へと腰を落ち着かせた。
瀬呂くんの隣も空いてたのに、なんでわざわざこっちまで来たんだろう。
「おい、名前。丸顔になんか言ったか。」
「あの攻撃でしょ。私もびっくりした。」
唐突な質問の意図が一瞬わからなくて首を傾げそうになったけど、すぐに合点がいった。
私だけじゃない。勝己もあの攻撃にあの日を重ね合わせてしまったのだろう。
私の答えに納得したらしい勝己はそれからなにかを言うことはなかった。
それからしばらくして、ステージにはリカバリーされたらしい切島くんと鉄哲くんが現れた。セメントス先生特設の腕相撲フィールドで、両者拮抗の腕相撲を繰り広げている。
これで勝ったほうが勝己の対戦相手になる。
勝己と一緒になって食い入るように見ていれば、拮抗していた力が少しずつ傾いて、切島くんの勝利となった。
似たもの同士の二人には、いつしか友情が芽生えていたようで切島くんは鉄哲くんに手を差し出して握り合っている。
勝己対切島くん。騎馬戦のときに立派に前騎馬を果たしたほどの頑丈な切島くん相手に勝己はどう戦うのか。
ちらりと盗み見た勝己は、なにかを考えているようで声はかけられなかった。
私も常闇くん相手にどう戦うか、考えないといけない。
『今回の体育祭、両者トップクラスの成績!まさしく両雄並び立ち今!!緑谷対轟!』
二人とも超強力な個性だ。いったいどう戦うのか、今後のためにも見ておきたいので思考を一旦止める。
スタートの掛け声とともに一斉に個性を発動させる。出久のパワーでおきた風が、氷の冷気を運んでくる。ひんやりとした空気は体を震わせた。
何度も繰り返される同じ攻撃に、会場の空気はどんどん冷えていく。むき出しになっている腕から熱が奪われていく。
「ゲッ、もう始まってんじゃん!」
「お!切島二回戦進出やったな!」
「そうよ。次おめーとだ爆豪!」
「ぶっ殺す。」
戻ってきた切島くんの明るい声が少しだけ寒気を緩和させたような気がした。勝己は切島くんを見ることなく煽っている。
その煽り癖はどうにかならないのだろうか。
「おめーも轟も苗字も強烈な範囲攻撃ポンポン出してくるからなー……」
「ポンポンじゃねえよ、ナメんな。」
「私はわりとポンポンだけど。」
「発動条件の違いだろうが。黙ってろ。」
確かに勝己や轟くんのように自分の体から攻撃を繰り出すわけじゃない私は、二人に比べて反動をほとんど感じずに範囲攻撃をしかけることが出来る。
勝己に一蹴されてしまったので、口を噤んだ。耳郎さんが哀れんだような視線を送ってくる。つらい、つらいぞ。
勝己はそんな私を無視して切島くんに説明している。切島くんも納得したようで、視線を勝己からステージへと移した。
出久たちの戦いは激しさを増している。また冷えてきた空気に負けて凍える腕を擦る。摩擦で熱を生んではすぐに冷えていく。
ここでこれだけ寒いのだから、ステージは相当寒いだろう。これはまた乾燥させに呼ばれるんじゃないだろうか。
少しだけ不安を感じて放送席を見たが、相澤先生もマイク先生もステージに集中していてわからなかった。
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