いざ、保須へ。


轟くんの言ったとおり、バッキバキになった体をほぐして時刻どおりにエンデヴァー事務所へと向かった。

もう轟くんは到着していていつも通りの涼しそうな表情だ。同じように訓練していると思っていたけど、こんなにも差があったのだ。悔しくて仕方ない。


「よし、揃ったな。今日は保須へと出張だ。今までのヒーロー殺しの動向からして、また保須へと出現する可能性が高い。ヒーロー殺しは単独犯だが、それに感化された雑魚どもがいないとも限らん。自分の身は自分で守るように。」


今回の職場体験は事件解決を見せてもらえるらしい。さすがは事件解決率はNo.1のエンデヴァーだ。こんなに近くで経験させてもらえるなんて、あとで勝己に自慢しよう。

それからはあっという間だった。市への連絡。出張する相棒の選定。エンデヴァー不在の際の連携の確認。あっけに取られている間に出発の時間となり、コスチュームを身に着けたまま保須へと少数精鋭で向かった。

到着したとき、保須はもうすでに戦場だった。あちらこちらから戦闘の音が聞こえて、炎があがっている場所もある。怖くて体が震えてしまいそうだった。あちらこちらから悲鳴も聞こえてくる。私が動かなきゃ、私たちが動かなきゃ。

恐怖に飲まれそうになっていた私を現実へと引き戻したのは、震えたスマホだった。どうやら同じタイミングで轟くんにも届いたようで、現場へ向かっていた足が止まった。


「苗字。今の、緑谷からだ。誰か戦えるプロヒーロー連れて、そのアドレスに向かってくれ。頼んだぞ。」


「え?ちょ、轟くん!?」


私やエンデヴァーが止める間もなく轟くんは行ってしまった。私もスマホを確認しようとしたとき、近くで大きな破壊音が聞こえた。急いで向かうと、そこには見覚えのあるような異様な姿をした敵がそこにいた。


「脳無……!!」


USJを襲ってきたやつと見た目こそ違うが、剥きだしになった脳みそ。人とは形容しがたい異様な姿。どこをとってもヤツだとしか思えなかった。エンデヴァーの炎に焼かれてもなお動き続けるその姿は、この騒動の裏に敵連合の影をちらつかせた。


「知っているのか、今の敵を。」


「詳しく知っているわけでは……ありません。ただ、以前敵連合が雄英を襲ってきたとき、一緒にいた怪物に酷似しています。複数の個性を持つ、怪物です。」


「なるほど。個性が一つではない。複合どころかそれ以上か。油断はしていられないな。」


「エンデヴァーさん、こんな状況で……言いづらいんですが、数名戦闘慣れしている相棒の方か、ヒーローを轟くんのもとへ連れて行きたいんですが……。」


ただでさえ目の前に脳無らしき敵がいるというのに、ふざけた申し出だとは自分でも思う。でも、エンデヴァーが言っていた。傾向から見て保須に再びヒーロー殺しが現れる可能性が非常に高いことを。

その保須で、脳無らしき敵が暴れている。もし、もしも、敵連合がヒーロー殺しをスカウトしに来ているのだとしたら?既に敵連合と手を組んでいるとしたら?

もう何度も行われてきたヒーロー殺しの犯罪。そろそろヒーローが、それこそエンデヴァーのように傾向を掴んで対策をしてきている頃だ。

そんな中で、ヒーロー殺しが確実にヒーローを殺すために派手に脳無らしき敵を使ってヒーローたちの目を引きつけているとしたら……?

ヒーロー殺しは、人目のつかないところで殺しを行うことが多い。今回、出久から送られてきたアドレスは人目のない路地裏。今もそこで出久と轟くんが戦っているとしたら……?


「轟くんは、一人でヒーロー殺しのもとへ向かった可能性が……あります。」

- 61 -


(戻る)