カーテンの隙間から差し込む朝日にまどろみながら目を覚ました。時刻を確認しようとスマホを手にとるも、どこを押しても画面が光らない。

ぼんやりする頭で昨晩のことを思い返せば、電源を落としていたことを思い出してボタンを長押しする。

メーカーのロゴが映し出されて起動したスマホは、夜中に溜め込んだ通知を一気に知らせてくる。

ぼんやりと眺めていただけの頭は次第に覚醒し、体を起こせばスマホは通知を全て吐き出したようで大人しくなった。

適当に情報を取捨選択していれば、見慣れた通知アイコンと、鋭児郎の名前。

昨晩の返事、やっぱり返ってきていたのか。

刻一刻と鋭児郎に別れを告げる時が迫ってくるのが嫌でもわかる。通知を開けば、昨晩も見た、やりとりの下に新たな会話。


『今日はダチと飯食おうぜって約束してるから、帰るの遅くなるんだよ。なんかあったか?』


その下にまた、言葉を続ける。5分、そう5分だけでもいい。一目鋭児郎に会いたい気持ちを前面に打ち込むも、打ち出されていく文字にその気持ちは見えない。

またすぐに返事は来ないだろうから、スマホと共に体をベッドへと投げた。




個性を使って、どんな嘘を紡げば鋭児郎を傷つけないですむだろうか。

もはやどんな嘘であっても鋭児郎を傷つけてしまう気しかしなかった。

私が傷つくのは構わない。むしろそれすら愛しく感じる。エゴであることはわかってる。けれど鋭児郎を守るためにつく傷だと思うと、愛しく思えてしまうのだ。



気力のわかない体を横たえたまま天井をじっと見つめる。真っ白に塗りつぶされた天井は、思考を止めてはくれなかった。

鋭児郎の笑顔が思い浮かぶ。少し色っぽい顔も、悲しげに歪んだ顔も、助けられなかった命があったと無く顔も、全部全部鮮明に思い出すことが出来る。

今まで私がさせてきた顔は、今後誰か私の知らない人がさせることになるだろう。今まで私が慰めてきた顔は、今後私がさせることになるだろう。

非戦闘用個性の私は、最前線にたつこともないかもしれない。鋭児郎と会うことはもう二度とないかもしれない。

これからこの日本全土を覆いつくすだろう恐怖を味方に、私は落ちるところまで落ちるつもりだ。

前も後ろも見えない真っ暗闇まで落ちて、一人さ迷うのだ。


思考が完全に黒に染まる前にスマホが震えた。はっとしてスマホを見れば鋭児郎の名前。

見れば、友人との約束はどうしても外せないものらしく、明日なら空けられるとのこと。明日では、遅い。

けれど、どう返していいかわからず、既読をつけたまま返事も打たずにスマホの画面を落としてしまった。


会いたい、逢いたい。

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