これが運命ってやつですか
この門を潜れば、私も一人の雄英生だ。試験の結果は上々だったし、落ちることはあまり考えてなかったけど、いざ受かって憧れの制服に袖を通して、門を潜るのは心臓が張り裂けそうだった。
どきどきしながら一歩踏み出せば、雄英高校の敷地内だ。
特別なにかが変わるわけでもない、ただ一続きの道路。それがもつ意味は私しか知らなくて、ちょっと変な目で見られてはいるけど、気にならない。
入学通知で聞いたクラスは1-A。いったいどんな人たちとクラスメイトになれるんだろうか。
大きな大きな扉を開く前に深呼吸を一つ。肺にたまった呼吸を全て吐き出せば顔をあげて勢いよく扉を開いた。
ざわざわとしていた声が一瞬止まって、たくさんの視線がこちらを見ている。
「お、おはよう!」
勇気を出して挨拶をすれば、ところどころから返ってきている。満足げに一歩一歩と踏み込んでいけば教卓に座席が指定された紙が貼ってある。
私は……ど真ん中じゃないか。
自分の座席に鞄を置いて、一度教室をぐるりと見回した。みんな強そうだ。ここにいるメンバーと一緒に切磋琢磨しながら一年間、頑張るんだと思うと一層やる気になってきた。
と、一人の男の子が目に留まった。私の視線に気付いたのか、顔を上げた男の子としばらく目があった。
門をくぐるときに感じたドキドキとはまた違う。鼓動だけじゃなくて、体温まで上がってしまいそうなドキドキを感じた。
「あ、あのっ……!」
すでに顔を落としてしまった男の子の傍へと、引き寄せられるように近寄った。
また騒がしくなっていた教室だったが、さすがに近くで声をあげれば気付いてもらえたようだ。
さらりと、赤と白の髪が混ざり合いながら顔が上げられた。
再び交差する視線は、どんどんと体温をあげていく。まだ名前も知らない男の子に、こんなことありえないと思っていても、止まらない。止められない。
「一目惚れしました!!好きです!!」
思っていたよりも、大きな声が出ていたらしい。遠くで机の上に足を乗せるなだとか聞こえていた声も聞こえなくなって、騒がしかったのが嘘のようにぴたっと静かになってしまった。
「……誰だ、お前。」
左右で色の違う瞳が、訝しげに私を見据える。そりゃそうだ、今初めて会ったばかりで、言葉を交わしたのもこれが初めてだ。
「わ、私は苗字 名前。あなたは……?」
「轟。」
告白は見事に無視されてしまったけど、彼の名前を知れた。ことの成り行きを見守っていたクラスメイトたちも次第にまたざわざわとし始めた。
轟くんか。心の中で何度も名前を呼びながら心にしみこませていく。初日からどうこうなろうなんて思ってないし、と鞄を置いた座席に戻った。
「あなた、いきなりすごいのね。」
「えっ、あっ、いや、なんか言いたい!って気持ちが止まらなくて。えっと……、」
「蛙吹 梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで。」
言いたいことを察知してくれたらしい。梅雨ちゃん、可愛い名前だ。さっきのもしっかりと聞かれていたらしい。ちょっとだけ照れくさいけど、恥じるようなことはしていないつもりだ。
「梅雨ちゃん!よろしくね。私のことも名前でいいよ。」
握手を一つすれば、教室の入り口付近からなにやら声が聞こえた。のそのそと入ってきた黄色い芋虫?の中から出てきたのは真っ黒い男の人。
「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。」
ぬーっと出てきたその人は、ちょっぴり怪しい。それは誰もが感じていたのか、シーンとしたままみんなの視線が注がれる。
「担任の相澤消太だ。よろしくね。」
怪しげな人は担任だったのか。全員が納得しつつ、信じられないといった表情を浮かべている。まぁ、信じられないよね。私も信じられない。
担任の相澤先生は体操服に着替えろというので、梅雨ちゃんと一緒に更衣室まで行った。
これから、私のヒーローへの道と、恋の道が開けていくのだ。……たぶん!
- 63 -
←→
(
戻る)