最強はどっちだ


「轟くんやばいね、最強じゃん!好き!」


個性把握テストとやらが終わって数日。何度も何度もめげずに話しかけた甲斐もあって、変なことさえしなければ話しかけるのを嫌がったり、近寄られるのを嫌がったりはしないので、私が隣で喋ってても拒否されたことはない。

ただ、興味はなさそうなので、返事はいつも「あぁ」とか「そうか」だけだった。でも無視はされないから、そういうところはほんと優しいと思う。めちゃくちゃ好き。


今日の轟くんはすごかった。最初の爆豪くんと飯田くんペア、緑谷くんとお茶子ちゃんペアの戦いも、もちろんすごかったのだがやっぱり轟くんだ。

しかもちゃっかりペアの障子くんを凍らせちゃわないように後ろに下がらせてたのもポイント高い。あれ、私がペアでも同じように守ってもらえたのかな。


「苗字。」


ばったばったと身振り手振りですごさを語るが、轟くんは自分自身のことなのでさして興味がないようだった。すたすたと歩いているけど、いつもより歩幅が小さいのは隣に私がいるからだろうか。


「苗字。」


「え、なに!?」


小さくなった歩幅にちょっとした喜びを感じていたら0になった歩幅に気付いてぶつからないように慌てて止まる。よかった、轟くんにぶつかる前に止まれた。


「どこまでついてくる気だ。苗字はそっちだろ。」


はたと顔を上げれば男子更衣室の文字。轟くんが指し示す扉の隣には女子更衣室の文字。轟くんが言ってくれなければあやうく男子更衣室にまでついていくところだった。

峰田くんあたりは喜びそうだけど、飯田くんにはこってり怒られるに違いない。中では今まさに着替えているだろう声が聞こえてくる。

いろいろと想像してしまって恥ずかしくなってきた私の頬は今最高潮に熱い。


「ごっ……ごめん、ありがとう!」


ばたばたと駆け足で女子更衣室へと飛び込んだ。あまりの勢いに響香ちゃんがびっくりした顔をしていた。


「そんなに急いで、どうしたの?顔も真っ赤よ。」


「梅雨ちゃん……っ!轟くんと話すのに夢中になってたら危うく男子更衣室に入りそうになってただけだから、大丈夫。」


ぱたぱたと熱を持った顔を冷ます。うう、失敗した……。


「苗字さん、ちゃんと周りを見ていないといつか大変な目にあいますわよ。」


「ごもっともです……。」


八百万さんに指摘されたのはもっともなことだ。今日の爆豪くんと緑谷くんの好評のときも思ったけど、ほんとちゃんと周りのことを見ている。私も見習わなければ。


着ていた戦闘服をいそいそと脱いで、制服に着替える。私の個性は指先さえ使えればいいので、動きやすさ重視なのでジャージみたいな見た目だ。着やすくてとても助かっている。

そういえば、緑谷くんの戦闘服はジャージみたいな感じだったな。爆豪くんは思いっきり戦います!って感じでかっこよかったし、飯田くんとかお茶子ちゃんみたいなヘルメットもかっこいい。

響香ちゃんの戦闘服みたいなのもセンスがあって好き。そういうセンスがほしかったと悔やんでももう仕方ない。

今度響香ちゃんにオシャレの先生になってもらおう。

あ、でも轟くんの好きなファッションの系統調査が先かな?

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