対轟シミュレーション
「なぁなぁ、苗字。今日放課後暇?飯食いにいかね?」
7間終了のチャイムが鳴り止むより前に、上鳴くんが体を反転させて声をかけてきた。今日は特に用事もないし、二つ返事で了承した。
「梅雨ちゃんも行かない?」
「ケロ、いいわね。ご一緒させてもらうわ。」
「やった!切島くんと瀬呂くんは?」
どうせならみんなで食べに行ったほうが楽しいよね。真っ先に梅雨ちゃんに声をかければ了承の返事がもらえて機嫌は上々だ。
そのままくるりと体を反転させて、後ろの切島くんと、梅雨ちゃんとは反対の隣の瀬呂くんにも声をかける。何故か二人は上鳴くんを一度みてから来てくれる返事をしていたが、なんだったんだろうか。
「轟くん!轟くんも今日一緒にご飯いかない?」
「姉さんが飯作ってるから、いい。」
もしかしたら、なんて甘い希望を持っていたが、一蹴されてしまった。轟くんのお家はお姉さんがご飯を作ってるのか。お母さんは忙しいのかな。それとも、私のところみたいに、家にいないのだろうか。
さすがにそんなデリケートな話は聞けないので、轟くんは諦めて他の……と思ったけど、すでに何人かは教室を後にしていたようで、集まったのは私を含めて7人だった。
「なに食いに行く?」
「この人数だしファミレスかハンバーガーとかでよくない?」
「なら駅前のファミレス行こうぜ。みんな帰りやすいだろ。」
「さんせーい!」
ぞろぞろと7人で連れ立って教室を後にする。友達と食事にいくなんて実は初めてかもしれない。お父さんに晩御飯はみんなで食べて帰る、とだけメールをいれておいた。
「透ちゃんはこの間の戦闘訓練、轟くんと戦ったわけだけど、実際どうだったの?」
「名前ちゃんさっそく轟くんの話だね!」
私=轟くんと方程式が出来ているらしい。そりゃそうか、毎朝登校するたびに好き!って言い続けてるんだもん。
ちなみに、おはようとだけは返してくれるけど、毎回好きの部分は無視されている。
「だって!あんなの強すぎでしょ!あ、でも瀬呂くんとかの個性なら動けなくても攻撃出来るし、戦えたりするのかな。」
「作戦たてりゃ、やれないことはねーかも?くらいだな、今んとこ。」
いくら私が轟くんを大好きでも、授業のときは一人のライバルであり、仲間でもあるのだ。ヒーロー科の面子が集まって、こういう話にならないわけがなかった。
「あ、でも三奈ちゃんの個性でも戦えそうだよね。氷とかしちゃえー!みたいな。」
「確かに!まとわり付くなら溶かしちゃえばいいもんねー。」
「切島ちゃんや私みたいなのは、逆につらいわよね。」
「動けなきゃどうしようもねーもんな。上鳴はどんな個性だっけ?」
「俺は帯電だな。つっても、狙って撃ったりするのはできねぇから味方も巻き込んじまう。苗字ならどう戦う?」
「私?私なら……」
うーんと考えて、頭の中でシミュレートする。滞空しちゃえば多分動けるけど……なんて考えていたら、ウエイトレスさんが料理を運んできてみんなの目の前に美味しそうな料理が並んだ。
「それより先にご飯!」
冷めちゃったら美味しくないし、対策の話ならいつでも出来る。まずはご飯を美味しく頂かないと。ぱちんと手を合わせてお箸を持った。ほっくほくの湯気が立ち込めるハンバーグを割ったら肉汁が溢れてくる。
これは美味しそうだ。私の様子を見てみんなそれぞれ食事に手を付け始めた。
食べ終わる頃にはみんな満足して、話なんて忘れてきゃっきゃしながら帰路へとついていた。
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