泥棒と敵


そろそろ30秒たっただろうか。街中を模した演習場は隠れるところもあるが、ビルなんかに上られれば視界もいい。

苗字の個性は機動力がある。障子の個性と組み合わさって葉隠に襲われたらひとたまりもない。

俺よりも機動力のある苗字がいる以上、逃げ回ることは得策とはいえない。

葉隠は見えないだけでそこにいる。なら、来たことと場所さえわかれば走るだけの葉隠よりは早く逃げられるだろう。

葉隠対策として俺の周囲に氷を張り巡らせる。これなら近付いては来ないだろう。

勝利条件は俺たち敵チームは過半数、9人が時間内に逃げ切ること。それ以上が捕まるようなら助けに行くことも考えないといけねぇ。

となると、牢屋を守っている誰かはいるだろうから、そいつを足止めしつつ逃がせる俺はそっちの方へ回れるよう極力牢屋から離れず逃げる必要がある。

そう敵チームの作戦で決まったのだ。

だが、そのくらいはヒーローチームだって考えているだろうから、この時点で狙われる確立は高い。迎撃が可能でよかった。


じっと目と耳を研ぎ澄ませる。捕まるわけにはいかないのだ。







「苗字、そこから西方向で氷を張るような音が聞こえた。」


障子くんはビルの上へと移動して、情報収集に徹してくれている。姿を見られてしまわぬよう、隠れているのでどこにいるのかは見えないが、無線で指示をしてくれている。

指示は一方通行だ。返事をして障子くんの聴覚を無駄なことに使わせたくない。

足音を極力立てないように、テグスを使って移動していく。未だに敵チームは誰一人見ていない。恐らくこちらが視認するより先に見つかって逃げられているのだろう。


「葉隠、恐らく爆豪は200mほど後方だ」


透ちゃんも爆豪くんを見つけたらしい。出来るなら同時に捕まえたいところだ。助けに走られると面倒だから。


そっと、建物の影から辺りを見回す。と、そこには凍った地面の中心にいる轟くんがいた。恐らくあれは透ちゃん対策だろう。

集中して周囲をうかがっているから、細心の注意を払って轟くんに一番近い路地裏へと入っていく。これに失敗するわけにはいかない。

焦りで狙いを外さないよう深呼吸する。


「苗字、葉隠が爆豪の姿をとらえた。間もなく捕獲出来ると思う。」


これは合図だ。するすると指先から最も視
認しにくい透明のテグスを伸ばしていく。まだ、まだだ、焦るな。


『ヒーローチーム、爆豪捕獲』


相澤先生の声で放送が入る。知らされていなかった音に驚いて轟くんの集中が切れた。今しかない。

ゆっくりと伸ばしていたテグスを一気に伸ばして周囲を這わせる。十分な強度のテグスを周囲に這わせ終わったら、一気に締め付けて巻き取っていく。


幸い轟くんにはばれていなかったようだ。巻き取りながら距離を詰める。透明のテグスは初めて見せたからどこから繋がっているのかわからなくてどうしようもなかったのだろう。

成す術なく私にタッチされた。


『ヒーローチーム、轟逮捕』


「よかった、この一瞬を逃したら捕まえられなかった気がする。」


「葉隠がくると思ったんだけどな。」


「私の作戦勝ちじゃん!やった!」


轟くんを連れて牢屋へと戻る途中だった。ものすごい勢いで走り抜ける飯田くんが見えたのだ。


「障子くん、飯田くんを発見した。轟くん頼める?」


「すぐに行く。」


飯田くんの走っていった方向からして、大回りをしながら透ちゃんの隙をついて爆豪くんを助けるつもりなのだろう。私たちが爆豪くんの攻撃力に耐えにくいのはバレている。

どこにいたのだろうか。障子くんは無線を送ってから本当にすぐに来てくれた。連行中の轟くんを任せて最短距離で檻へと向かう。大回りしている飯田くんよりは早く辿り着けるくらいの機動力はあってほしい。

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