エンジンとテグス


大急ぎで檻に辿り着けば、既に檻の中には爆豪くんがいた。めっちゃキレてる。真っ先に捕まったのが気に食わなかったのだろう。


「もー、爆豪くんうるさい!」


「うるせぇ!ふざけんなよてめェら!」


この間の屋内対人戦闘訓練のときも思ったが、爆豪くん以上に敵役がハマる人はそうそういないと思う。

そんなことより飯田くん対策だ。するするとまた透明なテグスを地上5cmくらいに這わせる。幸い、檻は少し開けた部分にあるので、視界も良好だ。路地へと繋がる部分、大通り、円を描くようにテグスを張り詰める。

ばれないように視線は爆豪くんに注いだままだ。よくもまぁ、こんなに騒げるものだと感心する。

飯田くんはどこから来るだろう。まさか空を飛んでは来ないよね……?


と、張り巡らせたテグスが切れた。強度を極端に下げたから、飯田くんのがっしりとした戦闘服と、個性の勢いをもって突っ込めば、そこにテグスがあったことすら気付いていないだろう。

切れた位置を確認すると同時にテグスを先に延ばす。今度は強度MAXだ。次いで視線を向ける。やはりものすごい勢いで飯田くんが突っ込んでくる。

強度MAXのテグスを飯田くんの前方30mあたりに網のように張り巡らせる。ただでさえ視認しにくい透明のテグスだ。飯田くんのフルフェイスではさぞ見えにくいことだろう。

爆豪くんは助けが来たと、僅かに手を檻から出している。もっと肩口まで腕を伸ばせばいいのに、そうしないのはプライドか。プライドなのか。


「飯田くんごめんね!即興だけど、捕獲網いっくよー!」


正確に言えば網がいくのではない。網があるところに飯田くんが突っ込んでくるのだ。飯田くんのフルスピードならやばかったかもしれないけど、檻は近いし、なにより爆豪くんにタッチしなくてはいけないということでスピードもそこまで速くない。


いける。そう確信して網を張った地点まで走り出す。飯田くんの速度で前方30mなんてあっという間だったみたいで、予想通り網に突っ込んだ。そのまま網を操って飯田くんをくるんでいく。


身動きが取れなくなってしまった飯田くんは、陸に上げられた魚のようだ。呆気なくタッチされて捕獲成功。


『ヒーローチーム、飯田逮捕』


すぐにアナウンスがされる。一体どこから見てるんだろう。


「てめェクソメガネ!捕まってんじゃねぇぞ!」


「真っ先に捕まってしまった爆豪くんには言われたくないな!」


「たまたま飯田くん見かけなかったらやばかったよ。運がよかった、みたいな?」


一仕事終えた私は檻に寄りかかって深呼吸した。まだこの鬼ごっこは始まったばかりなのだ。ギリギリまで頭をフル回転させなければ。


「飯田も捕まったのか。」


「そういえば轟くんも捕まっていたんだったな。」


「あぁ、苗字にやられた。」


呼吸を整えていれば、轟くんを連れた障子くんが戻ってきた。轟くんを檻に入れて周囲を警戒してくれている。轟くんと飯田くんが会話しているのを横目に見ながら障子くんの複製された耳の一つにひそひそと話しかける。


「しばらくは私たち二人でここに残ってこの三人を助けにきた敵チームを捕まえていくから、なにか音が聞こえたら私に教えてほしい。残り20分くらいなったら、進捗が悪いとか言って、障子くんに人を探しに行ってもらうフリをする。実際は見えない位置で索敵を続けて無線がほしいの。」


万が一逃げられたときのことを考えて、声は極限まで小さくした。たぶん、中の3人には聞こえていない。障子くんは複製腕を小さく上下に振って了承の意を示してくれた。

まだまだ鬼ごっこは始まったばかりなのだ。存分に個性を使わせてもらおう。

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