となりのきみ


「今日のヒーロー基礎学だが……俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見ることになった。」


お昼休みが終わって着席したら、チャイムと同時に入って来ていた相澤先生が告げる。

相変わらず1秒も無駄にしない合理主義者。


「ハーイ!なにするんですか!?」


「災害水難なんでもござれ。人命救助訓練だ!」


すっと差し出されたプレートにはRESCUEの文字。救助はあまり得意な部類ではないが、これもヒーローとして重要な部分だ。

レスキューの言葉に一気に教室が騒がしくなる。私の個性的に、火災とかなら役にたてるのだろうか。


「おい、まだ途中。」


ざわざわしだした教室を一気に静まり返らせる相澤先生の目力はすごい。さすが、視線で戦うイレイザーヘッドだ。

戦闘服を着るのは自由で構わないらしい。どういった場所での訓練になるかわからないから、一応着ていこう。

そう考えるのは私だけではなかったようで、ほとんどの人が戦闘服を身にまとっている。

ちらりと勝己を見れば、腕のタンクを片方だけ付けている。まぁ、あんなタンクつけてたらものは掴みにくいよね。

バス移動だというので、変に思われない程度に勝己の近くに行く。あわよくば隣に座りたいんだ。


「バスの席順でスムーズにいくよう番号順に二列で並ぼう!」


ピッピッと自前の笛を鳴らしている飯田くんに、目論見がうまくいかなくてがっくりと肩を落として自分の出席番号のあたりへと足を向けた。


「ここにいろ。」


向けたはずの足は踏み出すことが出来ず、不思議に思って振り返ったら勝己が肩を掴んでいた。

近くにいたこと、ばれてたんだ。


「飯田くんが怒るよ?」


「知るか。」


引き止められたことがちょっとだけ嬉しくて、一緒に怒られようとそのままバスに乗り込んだ。

しかし、どうやら飯田くんが考えていたようなタイプのバスではなかったようで、他の人たちも結局ばらばらに乗り込んでいた。

前を歩く勝己が二人がけの座席の窓側に座ったのを見て、隣に座った。

座席は思ったより近くて、足を広げて座っている勝己と膝が触れ合う。肩だって今にも触れてしまいそうな距離感で心臓が爆発しそうだった。

ちらりと勝己を見ればいつもと変わりなくて、ドキドキしているのは私だけなんだとわかったけど、それでも落ち着かせることは出来なかった。


バスが出発して、勝己は窓に寄りかかるように肘をついたので、近かった肩は少し離れたが、相変わらず膝は触れ合っている。


「派手で強えっつったらやっぱ轟と爆豪だな。」


勝己の名前が聞こえて、なんのことだろうと顔をあげる。勝己はちゃんと会話を聞いていたようで、小さく声を出して窓の外に視線を向けた。


「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ。」


「んだとコラ出すわ!!」


梅雨ちゃんの言葉にキレた勝己は身を乗り出して反論しているけど、まさにその通りだと思ってしまった私は噴き出してしまった。

当然、真横にいる勝己が気付かないはずがなく、目の前の柵を掴んでいた左手で頭がわし掴まれた。


「いたたたた、痛い!!」


私の悲鳴がバスの中に響くけれども勝己が離してくれる様子はない。軽く掴んでいるようではあるけど、それでこの強さって握力どうなってるんだ。ゴリラか。


「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ。」


「てめぇのボキャブラリーは何だコラ、殺すぞ!!」


上鳴くんの言葉にまた噴き出しそうになるけど、ここはぐっと我慢だ。頭を掴む指を離させることが先決……!

ぎゃんぎゃん喚く勝己が落ち着く頃にはバスも止まっていた。結局手は離せなかった。割れるかと思った……。

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