個性の使い道


「それにしても爆豪と轟が真っ先に捕まるなんて考えて無かったよな。」


「だよな。オイラも轟はぜってー捕まらないと思ってたぜ。」


「普通に捕まったけどな。」


そう、あっさりと捕まってしまった。狙われるのはわかっていたのに、対処が出来なかったのが悔しい。

捕まってから瀬呂との戦闘をじっくりと見ることが出来たが、やはりイマイチなにをしているのかはわからなかった。


「俺も苗字くんと直にやりあったが、彼女も轟くんのように複合個性なのだろうか。途中で身動きが全く取れなくなってしまった。」


「苗字の個性って確か水色の糸みたいなの出すだけだと思ってたんだけどな。」


飯田や瀬呂の予想がいろいろと飛び交う。だが、飯田の言う身動きが取れなくなる個性と、瀬呂や俺を引っ張り寄せた個性、双方が出来る個性は予想が付かなかった。


「俺が捕まったときも、瀬呂のときと同じように急に引っ張られたような感覚だった。」


「磁力系じゃねぇのか。引っ張ったり止めたり出来んだろ。」


いつの間にか爆豪も混ざっている。助けが来るまでは暇で仕方ない。特に俺と爆豪は早々に捕まったから持て余した暇も多い。

俺たちの話を聞いているのか聞いていないのか、苗字は障子と一緒に周囲に集中している。

いつも俺の周りをちょこまかしている姿とは全く違う、集中した姿。これだけ近くにいるのに、全く話しかけられないのはそれだけこの授業に集中しているからだろう。

じっと見ているのに気付かれたのか、苗字がこちらを向いた。だが、その真剣な眼差しは少し混ざり合っただけですぐにそらされてしまう。

こんなに真剣に苗字のことを見たのははじめてかもしれない。最初は個性のことを考えていたのに、いつの間にか別のことに思考が流れていく。


「轟、ぶっちゃけ苗字とどうなんだよ。」


こそりと耳打ちされる。隣を見れば峰田がそわそわした様子でこちらを見ている。


「どうって、なにがだ。」


飯田たちはまだ話し続けている。答えが出たら教えてもらおう。


「毎日あんだけ告白されてんだ。オイラならもう付き合っちまってるけど、なんかねぇのか。」


「なんもねぇよ。」


ばっさりと一蹴する。今のところ好きだなんだと言われてはいるが、どうこうなるつもりはないし、そもそも付き合ってくれと言われたこともない。


「でも今苗字のことじっと見てたのオイラ知ってるんだぜ。」


「苗字の個性について考えてただけだ。」


峰田はまだなにか言いたげだったが、俺が苗字から視線を逸らして個性の話へと混ざっていけばそれ以上なにかを言われることはなかった。


「どんな個性にしろ、苗字くんは個性を使いこなしているな。」


「爆豪もすげーって思ったけど、苗字もすげーわ……。」


どうやら個性がなにかの予想は終了していたようだ。結果どう落ち着いたのかわからなかったが、先ほど爆豪が行っていた磁力以上に納得できる答えが出たようには思えなかった。

どんな個性かは、せめてもう一度苗字の戦いぶりを見てみたかった。今度は峰田にバレないよう、少しだけ視線を苗字へ送った。

もし峰田の言うようななにかがあったとしたら、意外とまつげが長いと思ったことくらいだ。

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