セロハンとテグス


『ヒーローチーム、峰田逮捕』

障子くんに索敵をお願いして私は作戦を必死に考えていた。残っているメンバーで、正直一番怖いのが梅雨ちゃんだ。壁に貼り付けるし、舌を伸ばして私たちを攻撃しながら跳躍で一気に間合いを詰められる。

梅雨ちゃん対策に頭を悩ませていたら、峰田くん逮捕のアナウンス。透ちゃんがやってくれたんだ。


「なかなかみんな隠れてて探すの大変だよー。」


「ごめんね、捕まえる方まかせっきりになっちゃって……。」


峰田くんの傍から透ちゃんの声が聞こえる。ほんとに全部脱いだらわかんないな。無線機だけが浮いてるように見えるけど、それも小さなものだから、それだけで位置をとらえるのは難しい。


「じゃあ次の人探してくるね!」


声が少しずつ遠くなっていく。防衛も大変だが、障子くんがいるからまだ楽だ。透ちゃんには本当に損な役回りをさせてしまったと申し訳なくなってくる。


「オイラこの面子の中に混ざってたらすげー強い気しねぇ?」


「まぁ、わからなくはないけど……。」


「てめェは捕まえる予定なかったんじゃねぇの。」


ようやく落ち着いた爆豪くんが爆弾を落とす。いや、まぁ確かに最初から捕まえる予定なのはきみたち三人だけだったけど…!


「苗字ー!そんなことないよな!?」


「え、っと……捕まればいいなとは思ってたけど、絶対捕まえなきゃとは……思ってなかった、かな?」


「やはりそう考えられていたのは俺と、轟くんと爆豪くんか。」


「うん。やっぱり飯田くんはスピード出されちゃうと私でも追いつけないし、爆豪くんは攻撃されたくないし……、」


「苗字、誰かがあっちの住宅の上からこちらを伺っている。」


障子くんの言葉に雑談で緩んでいた顔が引き締まる。住宅の上、ということはそこから飛び降りれる自身がある人が潜んでいるということだろう。

障子くんの情報を頼りにひっそりとテグスを伸ばしていく。誰だろう。梅雨ちゃん対策ならまだ考えられてない。

向こうもこちらが気付いたことに気付いたようで、しゅるしゅると私と障子くんに向かってなにかが伸びてくる。急いで障子くんと距離を取って、そのなにかが伸びている方向へテグスを向かわせる。


「瀬呂くん見っけ!」


上手く隠れていたようだが、直線的に伸びるセロハンは居場所を伝えているようなものだった。

私が声をあげたら、瀬呂くんが姿を現したがにんまりと笑ってる。セロハンは、檻にくっついていた。


「よっしゃ、もらい!」


檻にまきつけたセロハンを巻き取って、瀬呂くんは一気に檻へと近付いていく。

爆豪くんを除いた3人が腕を伸ばしている。


「残念でした!そんな真っ直ぐじゃ、わかりやすすぎるよ!」


ぐいっとテグスを瀬呂くんに巻きつけて、私の方へ引き寄せる。空中でバランスを崩した瀬呂くんは檻に近づきながら同時に私にも近付いてくる。

慌ててセロハンをちぎった瀬呂くんだったが、もう遅い。ぐんぐんと近寄る瀬呂くんにタッチをする。


『ヒーローチーム、瀬呂逮捕』


「くっそー、苗字の糸を左のテープで食い止める予定だったのに!」


「ふっふーん!そう簡単には負けるつもりないんだから!」


これで5人だ。あと4人捕まえれば過半数を逮捕出来て私たちの勝ちになる。


「それにしても爆豪と轟が真っ先に捕まるなんて考えて無かったよな。」


「だよな。オイラも轟はぜってー捕まらないと思ってたぜ。」


「普通に捕まったけどな。」


やいやいと檻の中は盛り上がっている。人質役のせいで個性は使えないし、助けに来てくれている人も今は見当たらない。開始10分で捕まった三人は当然のごとくもう飽き飽きしているようだった。

時間は有限。この間に主に私の話題で盛り上がっている。聞いている限りどうにかして私を攻略したいらしい。

いつかは攻略されてしまうだろうけど、それは今じゃない。今はさせてあげない。

残り25分。まだ授業は半分残ってる。時々集中力が切れそうになるけど、ラストスパート。まだ頑張れる。

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