さよならなんて言わせない
いつもは見下ろしている名前の顔が今は俺より上にある。ベッドに膝立ちする名前の首筋が目の前にあって、少し興奮した。
数えるくらいしかしてくれたことのない名前からのキスは、甘くて熱くて溶けてしまいそうだった。
いつもなら背中を包み込む腕は、高さの違う今日は細い腰を包み込んだ。白く細い首筋にキスをすれば、簡単に欲情してしまう。
惚れた相手に触れていて、欲情しないはずなんてなかった。
この間とは違う、ふわふわのスカートの中へと手を差し込めばふっくらとして、少し冷たい太ももに触れた。
今日は止められないようで、欲望のままに名前の素肌を堪能する。このまま抱き潰して、毎日体を重ねて、それこそ名前の腰が砕けてしまうまで犯せば、どこへも行かなくなるのだろうか。
そんな想いが、指先に性急さをまとわせる。名前の下着を指先が引っかけば、過敏に反応を示した。
「名前……っ、名前!」
俺が、名前を翻弄している。それがたまらなく嬉しくて、口角が自然と上がった。
すると、名前から力をかけられるのがわかって、抗うことなく背中をベッドに預ける。こうやって見上げる名前も新鮮だ。
まるで騎乗位でもしているかのような体勢に、下半身が張り詰めるのがわかる。早く名前を乱して、どこへも行かないように縛り付けたい気持ちが先行して、腰を擦りつけるも、名前はいたずらに笑うだけで触れてはくれなかった。
代わりに好きだと何度も繰り返しながらキスを俺の全身に落としていく。これでは生殺しだ。ズキズキと痛む下半身が名前を求める。
じっと見つめていれば、名前と目があう。真っ赤に濡れた舌が名前の唇を端から端まで這うのが見える。もう我慢できない。ぐっと名前を引き寄せれば、見上げていた瞳が目の前にある。
どちらからともなく唇を重ね合わせれば、愛しさがこみ上げてくる。ゆっくりと、それでいて激しくキスを繰り返していれば、更なる刺激が欲しくなる。名前もそれを求めるように俺の首へと腕が回される。
少しの隙間も許さないほど、抱き寄せようとした。したはず、だった。
ちくりと痛みを首筋に感じた。途端、体中から力が抜け落ちる。名前にまわしていた腕がぱたりとベッドに落ちた。
ごめんねと紡ぐ名前は俺から離れていってしまった。
待て、待ってくれ。行かないでくれ。
そう紡ごうにも動くことはおろか声を出すことも出来なかった。僅かに唇が動くだけで、喉が動かないのだ。
机に向かっている名前がなにかをしているのはわかる。それを止めなければ、絶対に守ると決めたのに。
必死に体を動かそうとしても、動くのは僅か数ミリで、歯がゆい。それでもどこか一箇所だけでも動けないかとあらゆるところへ力を込める。
当然、動くはずがなかった。
名前は机に向かって行っていた作業が終わったのかこちらを向いた。けれど、視線は合わない。どこを見ているのかわからないまま、名前は俺の隣へと腰をかけた。
これがラストチャンスだと思った。
名前の腕を掴むため、指先に、腕に力を込める。
「朝が来たら、午前9時。」
告げられるのは恐らく敵集団の動き。2日後だと思われていた動きは、1日後、つまり朝が来れば動かれる。
「1時間くらいは動けないと思うけど、しばらくしたら動けるようになるわ。」
時間のことも、俺に施されたなにかのことも、どちらも有益な情報だ。間違いない。でも今俺が聞きたいのはそういうことじゃなかった。いなくならない、ただその一言がほしかった。
「鋭児郎、嘘ついてごめんね。愛してる。愛してくれて、ありがとう。」
少しずつ、少しずつ動かしていた指先が名前の腕に触れたが、あっさりと振りほどかれてしまった。
そのまま名前はこちらを見ることなく出て行ってしまった。扉が開く音がする前に、なにかが空気を揺らした気がしたが、それがわかることはなかった。
時間の経過とともに少しずつ体が動くようになってきた。まず最初にしたのは、名前が机の上に置いていったなにかを確認することだった。
「これ…地図か?」
簡易に書かれたそれは、地図のようで必死にどこの場所か実際の地図と照らし合わせる。
確か昨日似たような場所の地図を見た気がする。
そうだ、確かCエリアがこんなような場所だった。すぐにスマホをとって地図アプリを開く。Cエリアの拠点を検索すれば名前の残していった地図と酷似している。
急いで送れるだけのヒーローたちに、この恐らく事実と思われることを知らせた。もしかしたら名前もこちらの情報を掴んでいて、かく乱するために伝えていったのかもしれないが、先刻見た表情からはそうは思えなかった。
かく乱の可能性もあるため、全ヒーローが集まるわけにはいかなかったが、それでも昨日Cエリア担当に決めた人数の倍近くのヒーローが集まった。
目の前には、敵集団。大惨事はひとまず防げた。
あとは名前、お前を助けるだけだ。
「絶対に助けるから。俺だけの
ヒロイン」
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