肉体強化と透明人間


『ヒーローチーム、麗日逮捕』


お茶子ちゃんにはそのまま檻に入っていただいた。

トラップにまわしていたテグスも全て回収して、緑谷くんと対峙する。今誰か来られたらほんとやばい。

お互いにじっと見つめあったまま、時間だけが過ぎていく。早く捕まえてトラップを張りなおさないといけないとは思うのに、緑谷くんの強い視線がそれをさせてくれない。

どれくらいそうしていたのかザリ、とコンクリートを踏む音がする。反射的に二人ともそちらを見れば捕まった梅雨ちゃんがそこにいた。

梅雨ちゃんがこちらを見ながら檻に入っていく。自発的に梅雨ちゃんが来たとは思えないから、状況を見て透ちゃんが黙ってくれているんだと思う。

視線を緑谷くんに戻せば、緑谷くんも同じ考えだったのか透ちゃんを警戒し始めた。おかげでこちらへの圧力が減った。

多分今透ちゃんは動けていない。檻の中もみんな事の成り行きを見守るように静かだから、歩いたときの音が聞こえてしまう。

なら、今私がやることはひとつ。透ちゃんのサポートだ。


「みんなちょっとだけ我慢しててね。」


わざといつも使っている水色のテグスを檻に向かって伸ばした。テグスを檻にまきつければ一気に檻へと近付いていく。

足を檻に付けば、当然大きな音が辺りに響いた。


「くそっ……!」


あれだけ動けなかったのが嘘のようにあっちへこっちへ個性を使ってわざと音を立てながら移動する。

真意に気付いた緑谷くんは急いで私を止めようと走ってくるけど、機動力なら負けない。私は空中だって移動できるんだから。


「緑谷くんこっちこっち!」


捕まる寸前にまた水色のテグスを伸ばして逃げていく。色をつけているのはわざとだ。緑谷くんがすぐに追いかけてこられるように。透ちゃんに、向かう先をわからせるように。

始発地点の檻へと戻ってきた。やっぱりここが一番いい音立てる。でも、あまり檻を使っていると緑谷くんが不意に敵チームを逃がしてしまうかもしれないから控えないと。


『ヒーローチーム、芦戸逮捕』


アナウンスがまた流れる。多分透ちゃんはここにいるから障子くんがやってくれたんだろう。すごいな、なんて感心しながら一瞬気の緩んだ緑谷くんにテグスを伸ばす。見えるとか見えないとか考えている余裕もない。少しでいいから緑谷くんの動きを止めないといけないと思った。

するすると足首にテグスを巻きつけて思い切り引っ張る。足をとられた緑谷くんは肩膝を付いたが、まだ健全な指で私の隣のコンクリートを抉っていく。


「お願い透ちゃん捕まえて!」


「任せて!」


透ちゃんの声が聞こえたのと、緑谷くんの声にならない声が聞こえたのはほぼ同時だった。


『ヒーローチーム、緑谷逮捕』


緑谷くんを檻に入れて、そのままもたれかかった。一番疲れたかもしれない。


「あっ、ご、ごめん苗字さん怪我とかしてない!?」


「えっ、大丈夫!当たってないから!ただの体力不足!」


ばたばたと大きく腕を振って否定する。今の戦闘で集中力を使い果たしてしまった気がする。


「あれっ、もうこんなに捕まってたんだ!?」


「三奈ちゃん!障子くんも!」


無邪気な声が聞こえて、顔をあげれば三奈ちゃんをつれた障子くんがいた。残り時間10分にして、過半数を捕まえたのだ。


「あと10分、厳しい戦いになるな。」


「絶対助けにくるもんね。」


「ここからは全員で守ろっか。」


切れていた集中力を強引に繋ぎなおす。再度トラップを張って気を張り詰める。誰も通すもんか。

- 72 -


(戻る)