ヒーローは遅れてやってくるもんだ
三人でバラバラの方向をじっと見つめる。集中して周囲の音に耳を傾ける障子くんはすごいと思う。
私はもはや気力だけでしか集中力を保てていない。
トラップが風に揺らされて、ぴくりと反応してしまう。
「苗字、落ち着け。まだ10分もある。その調子じゃもたないぞ。」
「う…ご、ごめん。」
障子くんに窘められてしまった。先ほどまでのトラップと違い、足止めになればと思って強度を上げたせいで、気力の消費が激しい。
ふう、と息を吐き出せば、トラップがぐっと引っ張られた。そして、切れた。方角は南の路地だ。
「南の路地から誰か接近中!」
最初は確実に引っかかった。なのに、その後切れた。乗り越えられたのではない、切られたのだ。
「八百万さんか、切島くん……常闇くんもあるかも!」
急いでこちらへ向かってくる誰かに向かって強度MAXのテグスを蜘蛛の巣のように張り巡らせる。
「障子くん、距離は私が計る!たぶん相性最悪!」
路地の奥まで張り詰めた、今出せる最大の強度のテグスが紙で出来てるかの如く簡単にプチプチ切られていく。これは……。
「トラップだらけでやべー!」
姿を現したのは全身硬化させた切島くんだった。
「障子くん!透ちゃん!私切島くんだめだ!」
ばっと下がって防衛に当たる。残り時間のことを考えて、切島君以外もくるかもしれない。突破されたトラップを張りなおしていく。
障子くんが切島くんと対峙している。透ちゃんはどこにいるかわからないけど、対峙しているんだろう。
今私に出来ることがなにか、必死に考えをめぐらせる。
切島くんたちは戦闘を開始している。指を銜えて見ているだけなんて足手まといにはなりたくない。
幸いにもトラップが発動した感覚はないから、誰も来ていないらしい。捕まると思ってなくて遠くのほうへ逃げすぎたのだろうか。
ふと、先ほどの緑谷くんとの戦闘で抉れて隆起している地面が目に入った。
これだ、これしかない。
「二人とも気をつけてね!」
ぼこっと重い音を立てて割れたコンクリートが持ち上がる。そこまで鋭利な割れ方をしていなくて本当に良かった。
何重にもテグスを巻いて重さを少しでも軽減しようと思ったのだが、予想以上に重い。ぐっと歯をかみ締めて切島くんめがけてぶん投げる。
「おいおい、まじかよ……!」
咄嗟に切島くんは全身を硬化させて身を守ることに専念していた。そこまで大きくないとはいえ、コンクリートの塊が自分に向かって結構な勢いで飛んできてるのだから、当然の反応だろう。
真正面からコンクリートを受けた切島くんはダメージこそ少ないものの、砕けたコンクリートが土ぼこりをあげて視界を奪っていく。
その向こうで大きな影が中心に向かって飛び込んでいった。あれは障子くんだろうか。
『ヒーローチーム、切島逮捕』
土ぼこりがひいたところで切島くんの腕が障子くんにつかまれているのが見える。私にとっての最悪の相性は梅雨ちゃんではなく切島くんだったらしい。
ほっと安心したら急に力が抜けてへたり込んでしまった。
「苗字大丈夫か?」
気力を使い果たした私に手を差し伸べてくれたのは切島くんだった。
「あ、うん、ごめん。ちょっと疲れただけ。」
切島くんの手を握ってぐっと立ち上がる。制限時間まであとどれくらいあるのかと確認する前にアナウンスに電源が入った音がした。
『これで終了だ。全員最初の位置に戻ってくるように。』
アナウンスを聞いてみんな一斉に立ち上がった。檻から敵チームも出てきてぞろぞろと最初に解散地点となった広場へ集まる。
私もフラフラとしながら広場へしゃがみこんだ。捕まえられなかったメンバーも続々と集まってくる。ぎりぎりまでこのままでいさせてほしいです相澤先生……!
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