敵襲来
「尾白くん!大丈夫?」
「なんとかね。苗字さんは?」
「見てのとおり無傷!」
今日は救助訓練だといきまいていたはずなのに、どうして戦闘しているのか。そんな自問自答も許されないほどここは熱い。
もやに包まれたかと思ったら、いきなりこんなところに放り混まれて、なんだか顔のいかついお兄さんたちに囲まれていたのだ。
急いで、距離を取ってどうしようもないのだけ倒していたら頭上から声がして、見上げたら尻尾でぶら下がっている尾白くんがいたのだ。
隣にテグスを巻きつけて、燃えていないその柱の上に立つ。高いというだけで視界は広がる。
燃え盛る炎のなかに敵と思わしき人たちがたくさんいる。
「とりあえず戦うしかないよね。」
「そうだね。とはいっても私の個性じゃあんまり攻撃には回れないかも……!」
声を頼りにしてきたのか数人の敵が見えた。ぐるりとテグスを巻きつけて持ち上げては地面に叩きつける。男の人って重たいな……。
尾白くんも尻尾を器用に使って攻撃を繰り返している。この戦い方では、早かれ遅かれ体力がまた限界を迎えてしまうだろう。いくら個性を使っていても、持ち上げるてのは私の筋力だし、大の大人を何回も持ち上げるのは正直やりたくない。
尾白くんが戦っているのを横目に、柱の端まで歩いていく。ゴウゴウと燃え盛る炎は大量の熱を生んで、汗を流させる。
ごくりと喉を動かして個性でテグスを炎の中へとゆっくり伸ばしていく。思ったとおり、溶けてしまうほどの高温ではないようだ。
「苗字さん危ない!」
尾白くんの声にはっとすれば、蛇のような個性の敵がこちらに狙いを定めていた。急いでテグスを柱に巻いて飛び降りたが、一歩遅く攻撃が掠った。
そのままバランスを崩してしまった私は右腕を炎の中へと突っ込んでしまった。急いで引き抜いて右の肩口から個性を使って袖をそぎ落とす。
燃えたまま重力に従って落ちていった袖は地面でひとしきり燃えたあと、鎮火した。敵は尾白くんがやっつけてくれたみたいで、隅で伸びている。
「ごめん、とちった!」
ずきずきと痛む右腕はしばらく使い物になりそうにない。尾白くんに背中を預けて集中力を高めていく。とりあえず、今はこいつらにやられないようにしながら先生たちの助けを待つのが先決だ。
「腕、大丈夫?」
「全然大丈夫。とにかくこいつらをなんとかしよう。ただ、私物理攻撃あんまり出来ないから、そこら辺は頼んでいい?」
「無理はしないでね。とりあえず、出来ることはやっていくつもり。」
尾白くんの言葉に強く頷く。この間みたいな訓練とは違う。これはもう、実戦だ。動けなくなったら、きっと尾白くんは私を守りながら戦ってくれるだろう。完全なお荷物だ。そうはなりたくない。
自分の体力を考えて、網を作っていく。さっき溶けてしまわないことは確認したので、炎の中に隠しておく。攻撃手段の少ない私は、足止めをすることに全力を注ぐ。体力トレーニングの他に攻撃方法も考えておかないとな。
作った網を炎の中から出現させて、現れた敵にかぶせては上から尾白くんが尻尾で攻撃して失神させていく。
どれくらい時間がたったかわからない。火傷をした右腕の痛みが増していく。
「遅くなってすまない。大丈夫か。」
「「スナイプ先生!」」
対峙していた敵が次々と倒れていく。現れたのはスナイプ先生。ということは、決着がついたのか。ほっとして体中の力が抜けていく。
先生に連れられて入り口へと戻ってきた。途中みたセントラル広場は戦いの凄惨さを物語っていた。
「両足重傷の彼と片腕火傷の彼女を除いてほぼ全員無事か。」
警察官だろうか。生徒の安否を確認していた人と一緒に保健室へと連れて行かれる。警察官と思わしき人だけが保健室へと入っていく。なんでも重要な話があるらしい。
聞いた話によると、現れた敵をオールマイト先生がどの先生よりも先に現れて倒したらしいから、きっとその話だろう。生徒には聞かせられないから、と隣の部屋へと通された。
椅子に座っていると、リカバリーガールが入ってきた。
「痛みはあるかい?あそこはさほど高温じゃないけど、火傷するには十分だっただろう。」
「服がくっついてしまう前に離せたので、痛みはありますけど指も動かせますし、大丈夫です。」
「よくまぁ、これだけの傷で終わってくれたよ。」
チユ〜〜〜〜と右腕に個性が使われる。見る間に腕が綺麗になって痛みが取れた。代わりにどっと疲れたが、この間よりましだ。
「他に違和感のあるところは?」
「大丈夫です。」
拳を握ったり開いたりしてみるが、特に違和感はない。完全回復してもらったみたいだ。その様子を見ていたリカバリーガールは少し休んでいきな、とハリボーを渡して保健室へと戻っていった。
緑谷くんはボスっぽい敵と戦ったからの怪我らしいし、散り散りになったメンバーで怪我をしたのは実質私だけだ。完全な油断からくる怪我に悔しさだけが残った。
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