時すでに遅し


しばらくチョロ松くんと図書室で会う日々が続いた。彼はやっぱり噂みたいな悪い人には思えなかったから、今まで噂を信じて恐れていたことがなんだか恥ずかしくなってしまった。

でも、そんな時にチラつくのが体育の時に感じた次男の視線と廊下ですれ違った異常な気配。チョロ松くんに赤の服の彼についてさり気なく聞いてみるとやはり長男さんだった。こう考えるとやはり油断をしてはならないと気が引き締まる。
あの殺気を感じながらも2週間以上生き延びている自分を逆に讃えたくなった。……というか、なぜこんなに敵視されているのか未だに分からないままだということが恐ろしい。自分の何に非があるのかわからないし直しようがない。


「ちよこさん?」
「あ!ごめんね、チョロ松くん。どこまで話したっけ?」
「赤塚先生の作品図書室に全然置いてないねってとこまでだよ。」
「うーん、確かに少ないよね。あ、最近出来た……って言っても1ヶ月前なんだけど、新しく出来た本屋さん知ってる?」
「あぁ、一応……。でもまだ行ったことないんだよね。」
「あそこすごくいいよ!!赤塚先生の作品たくさん置いてあるの!他にも私が好きな作家さんの小説たくさん置いてあるし種類もすごい豊富なの!!」
「そうなんだ!おすすめ、教えてくれる?」
「いいけど……いっぱいあるから今度一緒に本屋さん行かない?案内するよ!」


……ちょ、ちょっと待ってタンマ。今何を言った?私は。一緒に行こうとか、デートじゃん!!
気がつけば友達に話すノリで口は動いていた。自分の失言に気づいた時には恥ずかしさでボフンと音をたてて顔が熱くなったし、目の前のチョロ松くんもグルグル目を回して顔は真っ赤になっていた。私はなんてことを言ってしまったんだろう。穴があったら入りたいとはこのことだ。今すぐ大声で叫びながら図書室から逃げ出したい。


「ご、ごめんね。そういうつもりじゃなくて……その、忘れて!!ほんとにごめんね。」
「……いや、その。嫌とか、じゃなくて。……っと、その……。」
「……?」
「も、もし本当にちよこさんがよければ……ああ案内してもらえたら、嬉しいな……なんて__あ、でも、ちよこさんがダメなら全然、その気にしないで!!」
「チョロ松くん、いいの?」
「ちよこさんこそいいの?」


お互いしどろもどろになりながらもポツポツと言葉を紡いだ。もちろん顔の熱は引かないしむず痒くて気恥ずかしかったけど嫌な気持ちじゃなかった。お互いに疑問を疑問で返し合う時間をしばらく続けると、チョロ松くんと目があった。そしたらなんだか可笑しくなって『ぷっ、』と2人でふきだした。ふわふわと暖かい気持ちが広がってなんだかとても嬉しくなった。
「変だね」っていいながら2人でクスクスと少しの間笑い続けた。


「じゃあ、チョロ松くんいつ暇?」
「今週の日曜日暇だよ。」
「なら、その日にしよう!」


そう言えば連絡先の交換もしてなかったなぁ、って思ってその事を切り出すと彼も確かにって顔をして「こんなに話してるのに変だね」って笑った。
無事LINEも交換してちょっと雑談していたらお昼休みはあっという間に終わってしまった。










今日は金曜日。金曜日の放課後いつも楽しい。明日から休みだし、いっぱい寝れる。でも今日は別の意味でも楽しかった。
日曜日にチョロ松くんとお出かけできるということだ。

私の周りには本の趣味が合う人なんていなかったし、本屋さん行こうと誘っても喜んでついてきてくれる人もいなかった。だから、今回友人になれた彼は特別だった。恋愛感情とはまた別の気持ちだと思う。付き合いたいかと聞かれたらうーん、と悩んでしまうからだ。

まぁ、なんやかんやで私は浮かれていたのかもしれない。

だから、今こんな危機的状況に置かれているのだ。

目の前には私の見知った顔が2つ。でもなんとなく雰囲気は違う。1つは私が良く知ってる隣のクラスの松野家次男カラ松くん。超危険人物。もう1つは紫のパーカーの上に学ランを羽織っているすこし猫背な子。もちろんどこからどう見ても松野家だ。そして私はその2人に校舎裏の壁に追い詰められている。控えめに言っても怖い。


「さぁ、girl?自分の罪が何かはよく知ってるよな?」
「……大人しそうな顔してよくやるよね。」
「ま、待ってください。私ほんとに何したか……」


私の言葉なんて最早聞くつもりも無いのか、喋る暇さえ与えてもらえず私の顔スレスレに次男の拳が振り落とされた。待って、本当に何でこんなに怒ってるの?!


「言い訳はいい。YESかNOで答えろ。」
「YES……」


あかん、あかんでちよこ!!これはあかんやつやで!!GAME OVERルート一直線やで!!
恐怖で頬をひくつかせる私をみて何を思ったのか、紫色の彼は恍惚とした表情をしてじっと私を見据えた。怖い、いろんな意味で怖い。
色々と質問をされたがどれも意味のわからないものばかりだった。

「兄弟に手を出したな。」
「どこの回し者だ。」
「骨抜きにしたあとはどうするつもりだ。」

などなど。もうYESかNOで答えさせる気さえない質問もぶつけられた。もちろんわたしは「何もしてない」「何も知らない」としか言いようがない。それを聞いてさらに2人は眉間にシワを寄せるのだが私にはもうどうしようもない。


「フッ、答える気もない……と?」
「いや、だからですね……」
「……もう、連れてくしかない。十四松……」
「な……?!うぐ……」


紫色が十四松、と謎の掛け声をすると私が反応する暇もなく黄色い何かが体にドカンとぶつかった。
これ、詰んだ。意識がなくなる前に思ったことは、そんな当たり前すぎる事だった。


20160409

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