共通点に胸を抱く


「ちよこ、どうしたの。いつにも増して変な顔ね。」
「え、そうかな?」
「変な顔は否定しないのね。」
「ごめん、よく話聞いてなかった。」


「あんた大丈夫?」と話を聞いてなかったことを咎められる事なく本気で心配される。「大丈夫だよ。」と返せば友人はあきれ果てたように深いため息をついた。

それにしても変な顔、とはどんな顔だろうか。彼に会うのが嫌で顔を歪めているのだろうか。でも、私は彼に悪い印象を抱いてはいないしそれはないだろう。そうなれば、嬉しさに頬を緩めているということだろうか。私は自分が思っているよりチョロ松くんに会うことを楽しみにしているのだろうか。確かに好青年だったし……と言っても私は彼に対して最悪のイメージを抱いていたわけだから底辺からのスタートだったのだが。

友人から怪訝な目を向けられながも1、2時間目を過ごした私。3時間目は体育だ。体育は基本2クラスで合同なのでD組の私はC組と合同だ。たしかC組は松野くんが2人居た気がする。
更衣室では松野くんの話題で持ちきりだった。「また喧嘩したんだって。こわい。」とか「遠くから眺めるには松野くんっていいよね。」とか。華の女子高生の会話はキラキラしている。

ふ、と昨日のチョロ松くんとの会話を思い出した。

“喧嘩するって感じの物騒な噂の大半は長男と次男絡みなんだよね。”

今までの体育ではこんなこと気にしなかったけどちょっぴり怖くなった。どちらかがC組に居たりするのだろうか。でも、2人とも体育は大体サボっているようなので特に気にする必要もないか。と自己解決して長袖のジャージを着た。







運動場に出てすぐに感じた殺気。尋常じゃなくて身震いする。言っておくが私には気を感じ取れる特殊な能力もなければ霊感などオカルトチックな能力もない。
ただ、運動場に出た瞬間C組の松野兄弟の1人と目が合ってそれから謎の殺気を浴びせられているように感じるのだ。殺気を出していない方の松野くんは殺気を出してる松野くんを宥めながら時折私を品定めするようにじっと見る。なんだこれ、おかしい。というか、サボってないんかい。……想定外だ。

最初は私も自意識過剰なだけかと思った。でも、どんなにあの視線から逃げるように動いてもぴったりと殺気は背中にはりついてくる。
ガタガタと震えていたら友人に「今日やっぱりおかしいよ。ちょっと見学したほうがいい。」って半強制的に見学席に移動させられたので、体はすごく元気だが見学することにした。
見学して分かったことはまず松野くんの殺気出してるのほうはカラ松くんという名前。もう一人の女子力高めのほうはトド松くんという名前だということだ。でも、何人目の兄弟かはわからない。一番知りたかったのに。

視線は体育終了まで続き、終了のチャイムが鳴ると同時に私は走って更衣室まで駆け込んだ。1時間緊張状態を保ち続けた体はヘロヘロで更衣室に入ると同時に崩れ落ちた。


「だめだ。私、自分が何したか分かんない……。」


これが本当に単なる自意識過剰だったらいいのだが……。私は大きく深呼吸して、制服に着替え始めた。









4時間目も終わりお昼休みだ。友人とお昼を済ますと私は少し早足で図書室に向かう。いつもより少し早めの時間だ。

幼い頃から本は好きだったけどそれを語り合える仲間は極端に少なかった。高校に入ってもそれは変わらず、寧ろ友達を作ることは幼い頃より下手くそになっていて同じ趣味の友人をなかなか見つけられなかった。
だからきっと、チョロ松くんという同じ趣味を持つ人が出てきてくれて嬉しく感じたんだと思う。図書室に入り、いつもと同じ奥の席に向かう。するとそこには既にチョロ松くんが座って本を読んでいた。


「ちょ、チョロ松くん?」
「あ、ちよこさん。こんにちは。」
「こんにちは。チョロ松くん早いね。」
「うん、は、張り切っちゃったからかな。」


チョロ松くんは、はにかみながら本を閉じる。少したどたどしいところを見ると、昨日も思ったが女の子慣れしていないのだろう。女の子と遊びまくっているのではないかという勝手な偏見を持っていた私の予想を大きく破壊してくれたチョロ松くん。これで不良って呼ばれるなんて少し可笑しいかも。と勝手に思って笑ってしまった。
女の子慣れしてない割に「笑顔が可愛いね。」って天然で言ってくるもんだからそれはそれで困ったものだと思った。


話を聞いているとどうやらチョロ松くんは最近赤塚さんの作品に手を出し始めたようでまだ少ししかシリーズを読んでないそうだ。私がチョロ松くんを赤塚さんのファンに染め上げようと小さく決心。


話をしていると時間が経つのは早く、お昼休み終了まであと5分にまで迫っていた。ここが聞き時だ。何のって?カラ松くんとトド松くんについて、だ。これは私の生死に関わる。一刻も早く聞かなければ。


「あ、あのさ、C組のカラ松くんとトド松くんってご兄弟ですよね……?」
「あ、うん。そうだけど……もしかしてなにかされた?!」
「あ、いや、ちがうの!体育の時ふと何番目の子かなって気になっちゃったから……。」
「あ、ああ。そうなんだ。体育の時ってことはちよこさんはD組なんだね。カラ松は次男、トド松は末弟だよ。」
「うん、D組なんだ……え、あ、そうなんだ!カラ松くんは次男でトド松くんは末弟……。」


しまったぁぁぁ!!!1番ダメなやつじゃん!!私のこと睨んでたの次男!!だめなやつだよこれは!
うぇっ、ダメだ急に吐き気が。胃が痛い。


「ほんとに大丈夫?!顔色悪いよ!」
「大丈夫。元気。超元気。」
「えええ?!」


チョロ松くんは納得してないようだったけど、ちょうどそこで予鈴が鳴ったので急いで走り去った。ごめんねチョロ松くん。


「これは、えらいことになったで……」


嫌な予感が全身を駆け巡り背筋がゾクッとした。
教室に帰る途中、一瞬嫌な気配とすれ違った。カラ松くんから受けたものと似ている。その時視界の端に入ったのは“赤”だった。

鮮やかな赤のパーカーが、憂鬱になりそうなくらい頭にこびりついた。


20160331

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