思ったようには進まない


今日は待ちに待ったチョロ松くんとのお出かけの日。
いつもは少しだらけたような服装だけど今日はそうともいかない。いつもピシッとした彼の事だから、今日もきっとちゃんとした服装で来るのだろう。そんな時に隣の私が変な服を来てたら彼にとんだ迷惑をかけてしまう。それだけは避けたいと思い、クローゼットの奥に眠っていた清楚なワンピースを取り出した。"最近風が冷たくなってきたから生足はキツイ"なんて若干若者とは言いがたい(言いがたくはないのかな?)ことを思い浮かべたあとストッキングに脚をとおす。そして奥に眠っていた淡いミント色のカーディガンを羽織った。ここで1回姿見を見てみる。お化粧も軽く済まし長めの髪はゆるく三つ編みしてあるので案外悪くない。馬子にも衣装とはこの事か、と自虐をして少し悲しくなった。

待ち合わせ場所は駅前の大きな木の前。そこはよく皆が待ち合わせしたりする時に使われる。言わばシンボルみたいなもんだ。日曜日となればもちろん人が多い。有名な所だから待ち合わせにぴったりだと思って指定したのだが、人がごった返している人を見ると逆に出会うことが出来ないんじゃないかと思ってしまった。さっきからずっと誰かしらとぶつかっているし意外と痛いし。私が一つため息をつくと同時に携帯がブルブルと震えた。

「え、チョロ松くん……?」

ビックリして少し停止したのだが、ブルブルと鳴り続ける携帯にハッとしてすぐさま応答した。

「ちよこです!」
「おはよう、チョロ松です。待ち合わせ場所の事なんだけど木の前めちゃくちゃ人多くない?」
「お、多いね。チョロ松くん見つからなくて困ってて……」
「うん、僕も……。今近くのスタバァの前に避難してて……。ちよこさん、今どこらへんにいる?」
「あ、スタバァの近くだよ!私もあの人混みはキツくて避難しようと思ってたところだから……」
「……あ、ちよこさんみっけ。今行くからそこに居て!」
「え?!あ、切れた……」

動くな、と言われると動きたくなってしまうのが人の性というものだけど、さすがにここを動く勇気はない。もう二度と会えないのではないかと思うほど本当に人まみれだ。そんな思考に耽っているところでぎゅ、と腕に優しい体温を感じた。

「よかった、会えたね。おはよう」
「チョロ松くん、おはよう!」

人混みの中でやっと見つけたチョロ松くん。知的なメガネに清潔感溢れるカーディガンを羽織った至ってシンプルなコーディネートなのに様になっている。心底安心したよえに微笑む彼は服装が違うだけなのに学校で受ける印象とは大層違って見えた。なんとなく怖そうだと思った彼は今はただの優しそうな青年だった。
腕、突然掴んでごめんねと彼は若干顔を赤らめながらそう言うとそっと離した。「行こっか」とどちらからともなく歩き出して目的地に向かう。少し先に少し人から遠ざけられているようななんとなくそう感じる場所があった。よくよく見てみるとフリーハグとやらをしているらしい。日本のこんな所でフリーハグとはなかなか大胆な人もいたものだと見てみるとサングラスをかけた青年が立っていた。すっごく見た事のある顔だ。

「...ねぇ、チョロ松くん、」
「何も言わないで知らない人だから僕見てないから。」
「う、うん...」

チョロ松くんは完全に知らない人の振りだ。私の問いかけにも若干食い気味で彼は被せてきた。分からない、何番目かは分からない。チョロ松くんは知らないふりをしているけど、明らかにあちらの兄弟はこちらを意識している。
怖い、怖すぎる。私もこうなれば知らないふりをしよう。そう思って隣を通り過ぎた。突き刺さる視線は明らかに私に向けてのものかと思われるがチョロ松くんにも何かしらの怨恨?羨望??と思われる視線が何故か向けられている。不思議なご兄弟だね。そう言うとチョロ松くんは乾いたような笑いを見せた。

その後もショッピングモールに着くまでに彼のご兄弟とみられる方が複数街にいた。猫のボスっぽい人が裏路地の猫集会を見せてやるから来いと謎の勧誘を受けたり、野球しない?と謎の勧誘を受けたり、この焼き鳥買ったら幸せになれるぜ!今なら1本400円!、と赤いシャツにはちまきを巻いた人から謎の勧誘を受けたり(もちろん丁重にお断りした)、おいしいカフェがあるから一緒に行かない?きっとボクの方がずっと楽しませてあげられるよ?と謎の勧誘(ナンパ)を受けたり...って勧誘しかうけてねーじゃねーか。

「なんなんだよあの悪魔共...!!!!」
「お、落ち着いてチョロ松くん!」
「ごめん、本当にごめん。でも尻を出したりしないだけマシでよかったと思う僕もいるんだ。殴りたい。」
「どうしてこんな所で露出??」

すぐ尻出すんだよ、悪魔の兄弟なんだよ、舐めてかかったらこっちが恥かくんだ...。そう言って顔を青くさせているチョロ松くんからは悲壮感が漂っていた。知っていると思うけどまだショッピングモールにも着いてない。何もしていなんだよ私たち。既にお通夜状態のチョロ松くんを宥めがら見えてきたショッピングモールに足を進める。後ろからはガヤガヤと騒がしい声が聞こえる。
隣の彼の心労は、今日1日続くのだろうか。波乱の一日の幕開けだ。


20181230

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