現実を歪ませるのはぼくらだ


どうも四男松野一松です。燃えないゴミ社会のクズです。そんなおれの兄弟である三男松野チョロ松は今絶望したような顔をしながらスマホを見ている。理由はなんとなく察しがつく。今日のおれたちの行動のせいで縁でも切られたのだろう。ご愁傷様。

「チョロ松兄さん。」
「……なに、一松。」
「なんかあった?」
「なんかあった?じゃねーし!!なんで他人事?!主にお前らが関わってるよ!!」
「ヒヒ、ナイスツッコミやなー、チョロ松兄さん」

おれがなんで用事もなくチョロ松兄さんに話しかけたかって?そりゃ理由は1つ。今みたいに八つ当たりしてくれるからだ。運がよければ肩パンをいただける……のだが今回はそれどころではないみたい。残念。

「ほんっと最悪。最悪最悪!!!あああどうしよう。ちよこさんに電話しようかな、でもなぁ。いや、直接謝るべき?……でもなぁ。あー!!もう最悪すぎるわこの兄弟!!!クソが!ケツ毛燃えろクソ!!」

スマホを片手に頭を掻きむしりながらジタバタする兄さん。どう汚名(今日の失態)を挽回するかという話から最終的に兄弟をディスるという訳の分からない方向にいっていた。ちなみにこれは居間で繰り広げられている。兄弟全員集合状態だ。チョロ松兄さんのこのディスりに兄弟も黙っているわけがない。特に長男。

「おいおいチョロちゃん、まだあの子と関わる気?やめろって言ってんのに〜。それに俺らをディスんなよ〜兄弟じゃーん!」
「うるせぇうんこ長男。」
「な?!おい!!やめろよ傷つくだろうが!」
「あ、そんなことよりさ。」
「そんな事とか言うなトド松!!!」
「はいはーい。……チョロ松兄さんさ、ちよこちゃんと日曜日遊ぶ約束してるでしょ?」
「あ、え、うぇ?!」

トド松のその言葉にチョロ松兄さんの肩がビクンと震えた。明らかに動揺してるし、目が尋常じゃないほどに泳いでいる。

「はいはいーい!ぼくわかった!チョロ松にーさんメールで謝ったけどお返事帰ってきてないんでしょー!それで悲しんでるんだ!どうどう?正解?正解?」
「フッ……パーフェクトだ、十四松。」
「いや、なんでカラ松が返事すんの?!うーん、まぁあながち間違ってないんだけど……じゃなくて!!!トド松お前どこから情報仕入れた!!!」
「えへ、秘密!」
「あざとクソドライモンスターめが!!」
「やめてよ!可愛いからって嫉妬しないでっ!」
「してねーし!!!」
「オレの神に選ばれし禁断の瞳は分かってるぜ?チョロ松はオレのようなイケてるギルトガイになりたいんだよな……?」
「お前はだまってろ!!!」

ぎゃんぎゃんと騒ぐ4人。おれはそんな元気ないしめんどくさいから端で猫と遊んでいる。でもそんな4人を……いや、チョロ松兄さんのお出かけ計画を見逃すはずがない男がスッと立ち上がった。

「ちょろまぁぁぁつ!!!お兄ちゃんは許さねーぞ!」
「許しをもとめてねーから。」
「あっ、今心臓キュッてなった。」

馬鹿じゃねーの、みたいな視線をチョロ松兄さんは送っている。……が、それでもおそ松兄さんは怯まない。ほかの兄弟達はすっかり静かになっておそ松兄さんとチョロ松兄さんを見守っていた。

「連絡来ねえってことはそういう事じゃねーの?」
「いや、まだ今さっきだから。それに彼女から先にメッセージ入れてくれてたし。」
「いやいや、今日限りって事じゃねぇの?これでチョロ松誑かすのやめなかったらどんだけメンタル強いんだよ梅田さん。ってなるからね。」
「誑かされてねーっていってんだろわからず屋。そこらのメス猫と一緒にすんな。」
「チョロ松兄さんその顔でおれに豚野郎って言ってくんない?」
「ちょ、空気読めないにも程があるよ一松兄さん!!なんなの死ぬの?!」
「早く言ってよチョロ松兄さん。」
「うるせぇぞ豚野郎。黙ってろ。」
「ヒヒ……」
「気持ち悪っ!!!エグすぎるよ……」
「あざーす」
「褒めてない!」

我慢出来なくて思わず声をだしたら大変なことになった。トド松はめっちゃ『わけ分かんない空気読めや四男』みたいな目で見てくるし、クソ松と十四松とおそ松兄さんは呆然としている。チョロ松兄さんはキレてるから案外あっさり罵ってくれた。おれ的には足りないけど目がめっちゃ良かったからよし。

その後、何故かSかMの女の子どっちが好みかって話になってなんか意味わからないことになって晩ご飯の時間になった。
おれは恥じらいながらもえげつない罵倒をしてくれる子がいいって言ったらドン引きされたけど御褒美だと思う事にした。







つぎの日。土曜日の夕方。チョロ松兄さんがあの話題の女子と出かける前日。まだメッセージははいってないようだった。トド松は何度かデートを潰された経験を思い出して自分と重ねてしまったのか少し同情のような目を向けていたけど後悔はしていないらしい。十四松はいつもと変わらない。おれもみんなに乗っかってただけだし大して興味はなかった。ただ、カラ松とおそ松兄さんは弟に悪い虫がつかないようにと行動していたわけだから少し安心したような表情だった。チョロ松兄さんは死にそうな顔をしてたけど。

おれはこの状況に少し驚いていた。見た目誠実そうで物腰柔らかそうなあの女がいくら幻滅したからって返事を返さないのはおかしいのではないか、と。チョロ松兄さんから離れるにしても気づかれないように少しずつ距離をおいていくのがああいうタイプのやり方ではないのか?出かける約束をしておきながら自分がメッセージを送って以降音沙汰もないなんていうのは明らかにおかしい。……って言ってもこれはあくまでもおれの見解だから確信なんてないけど。なんでここまで知ってるのかって気持ち悪くなった?別に思ったなら言ってくれていいですよ。

おれの友達が窓の外にぴょこんと飛んで行ったと同時にチョロ松兄さんは「あああああああっ!!!!」と叫びながらすごい勢いで立ち上がった。
叫びながら返事を打って液晶割れそうな勢いで送信をした。おれたちはそれをぽかんとしながら眺めている。

「ち、チョロ松?どうかしたのか?」

カラ松がそう聞くと、「い、いやっ、何でもないケド?!」と返事をした。めちゃくちゃ裏声だった。それからはチョロ松兄さんは先程とガラリと変わって頬が緩みっぱなし。彼女から返事が帰ってきて、しかも明日はそのまま出かけることになったのだと瞬時に悟った。


それを見守ってあげるなんてことおれたちはしないよ。彼女が敵であろうがなかろうが出かけるのが男女2人である限りおれらはそこに割ってはいるだけ。
デレデレのチョロ松兄さんは既にポンコツ。そんなこと気づく気配も見せずにニコニコしてる。おれたち5人は目を合わせて静かに口元を歪ませた。


20160829

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