「さっきの良かったの?」

「えっ何が?」

「及川くんのこと」


酔いが程よく回ってきた頃に美月ちゃんから切り出されるその名前に胸がドキリとした


「良いも悪いもないよ...もう関係ないんだもん」

「関係ないって顔してないから言ってるの。ほんっと及川くんもなまえも素直じゃないねぇ」

「及川くんもってどういう...」


聞き返そうとしたその時、座っていた後ろの方がやたらと騒がしくなった。振り返ってみるとそこにはかつてバレー部だった4人が固まっていて、その中にいる及川くんをやたらと弄っているように見えた


「ねえなまえ、もう私たち大人になったんだよ。同じ過ち繰り返さないよ」

「そうなんだけど...でも私から別れておいて今更って思うじゃん」

「そんなことないよ!及川くん待ってるって....あ、ごめん」


その口ぶりでは向こう側の事情も少なからず知っているようだった。きっと彼氏の岩泉くんとでも話しているんだろうか。どうせ私も3月には短大を卒業して春から東京で就職をする。こうして同窓会でもない限りもう彼と会うこともないのだから、早いうちに自分の気持ちともケリをつけなければならない

はぁ、と溜息をつくと同時に肩をトントンと叩かれる。その相手に私は目を開き唖然とした


「あ、あのさ、ちょっと話さない?」

「でも美月ちゃんが、え?あれいない...」

「美月ちゃんなら岩ちゃんのとこ行っちゃったよ」

「まじかぁ...」


いつの間に私を出し抜いて、と先ほど岩泉くん達のいた方を覗けば、してやったりと美月ちゃんがピースを向けてきたのでもはや諦めるしかないのだろう


「ごめん、嫌だった?」

「ううん嫌じゃないよ」

「髪......さ、」

「え?」

「高校のとき長かったのに切っちゃったんだね」

「うん、たまには短いのもいいかなって」

「似合ってるよ」

「わ、なんかそれナンパされてるみたい!チャラい!」

「え、酷い!!素直な感想言っただけじゃん」


正直変わったことに気づかれて嬉しかったのだけど、やはりその口調は昔のままで、ノリの軽さというか、そういったものがナンパそのもので笑えてしまった。それにつられる様に及川くんもけらけらと笑った



2016.03.18