それから色々な話をした。今大学で何をしているとか、バイトがどうとかそんな世間話をずっと飽きることなくしていた。すんなりと話せているのも、もしかしたらお酒の力があるからかもしれない


「なまえちゃんは...今彼氏いるの?」

「大学で資格の勉強に試験、その上バイトまでしてていると思う?」


思っていたよりも短大とは時間がなくて大変なものだった。勉強する期間が短い分、そこに詰め込まれているものがとてつもない量だ


「そう、なんだ...」

「それから私ね、東京で就職決まったの。だから彼氏作ったとしても、もうすぐここから離れちゃうんだ」

「えっ東京?本当に?」


寂しくなっちゃうねーなんていう軽い返事がくると思っていたのに、及川くんの口から驚愕の事実を知らされる


「住む場所とか、勤務先、俺の大学の近くだったらいいな〜」


なんてね、と笑う彼にえ?と声にならない呟きをした。3年生の秋頃に別れてから進路の話をした覚えもない、何も知らず宮城に住んでいる程で話を進めていたのだがどうやら盛大な勘違いをしていたらしい


「えっ、待って、なにその顔!?もしかして東京の大学に行ったこと知らなかった...と、か」

「その、まさか、だよ...すごいびっくりした」

「なまえちゃんに言ってなかったなんて...」


及川くんが頭を抱えて俯く。大丈夫?なんて声をかけてみたけれど、ちょっと待って、と言われて1分ほど待ってみた...が動かない。何をそんなに頭を抱えるようなことがあるのか、その様子を見ていてなんだか可笑しくなってしまってつい吹き出した


「あははっ、なにそんな、深刻そうな顔してるのっ」

「笑わないでよ〜なまえちゃんひどいっ!!」


けらけらと笑っていると、時間があの時のように戻ったような気がした。及川くんの質問を返せば、私はあれから一歩も踏み出せず恋愛というものをしていないのだ


「もし、さ、また向こうでも出会えたら、その時は離さないから」

「えっ.....な、なに、及川くん酔ってるの?」

「なまえ」


真剣な眼差しに呼吸すら忘れて魅入る、あぁ、この瞳はコートで何度も見たことがある。ギラギラとしていて、獲物を見つけ追いかけるライオンのような瞳。低く甘く呟かれた名前は、私の心臓をどくんと跳ねさせるのには十分な威力だった


「俺、岩ちゃん達のところに戻るね、たくさん話せて楽しかったよ」

「あ、うん、私こそ...」

「またね、なまえちゃん」





"またね"にどんな想いが込められていたのか、今の私には知ることはできなかった




2016.03.28